「単なる試作機器や製造設備で終わらせないためには?」――今、求められる3Dプリンタの真価と進化:3Dプリンタブームのその先(3/5 ページ)
作られるモノ(対象)のイメージを変えないまま、従来通り、試作機器や製造設備として使っているだけでは、3Dプリンタの可能性はこれ以上広がらない。特に“カタチ”のプリントだけでなく、ITとも連動する“機能”のプリントへ歩みを進めなければ先はない。3Dプリンタブームが落ち着きを見せ、一般消費者も過度な期待から冷静な目で今後の動向を見守っている。こうした現状の中、慶應義塾大学 環境情報学部 准教授の田中浩也氏は、3Dプリンタ/3Dデータの新たな利活用に向けた、次なる取り組みを着々と始めている。
日本から世界へ「3D図鑑プロジェクト」
こうした3Dデータの利活用を広げていくための象徴的なプロジェクトとして、田中氏が現在取り組んでいるのが、「3D図鑑プロジェクト」だ。
図や写真といったビジュアルと解説文からなる「図鑑」は、日本独自の発展を遂げた形式であるという。「この図鑑を3Dデータの時代にあらためて捉え直そうというアプローチが、3D図鑑プロジェクトである。現在、ケイズデザインラボ 代表取締役社長 原雄司氏をアドバイザーに迎え、慶応大学のファブ地球社会コンソーシアムを母体として、さまざまな企業などと連携・協力しながら3D図鑑を構築しようとしている」(田中氏)。
この3D図鑑プロジェクトでポイントとなるのが、先ほども登場したAMFやマイクロソフトが中心となり策定を進めている「3MF」、そして3DデータをPDF上で閲覧できる「3D PDF」などの次世代3Dデータフォーマットの相互変換技術だ。
例えば、AMFであれば、動物の3Dデータに対して、目、耳、鼻、口などの部位の説明を付けたり、解説文を入れたり、色を付けたりすることができる。閲覧者も自分の好きな角度で3Dデータを眺めたり、気になる部位を拡大してディテールや解説文を読んだりすることもできる。「従来のSTLでは表現できないようなことが、AMFや3MFという新しいデータ形式の登場により可能となった。ただ、技術だけで議論してもダメなのだと思う。新しくできるようになった機能をうまく生かして、創造的な利活用の事例を増やしていくことが大切だ」と田中氏。現在、インターネット上の百科事典である「Wikipedia」との連携も計画しているという。
3D図鑑プロジェクトの活動はまだ始まったばかりだが、今後、動物、昆虫、植物、自動車、人体、宇宙などいろいろなジャンルの3D図鑑を、協力企業などとともに整備・構築し、教育機関、博物館などへの提供や、ワークショップでの利用などにつなげていきたいという。
「“コレクション”を愛する文化というのも世界的に見てユニークな要素だと思う。3Dデータは国境がないグローバルなものだが、“3Dとの向き合い方”は日本の文化性が色濃く出るはずだ。こういうことを、産学・文理の壁を越えて議論していける場にもしていきたい」(田中氏)。
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