内部の静電反発力のオンオフだけで動くヒドロゲルを開発:医療技術ニュース
物質・材料研究機構は、理化学研究所および東京大学と共同で、内部の静電反発力のオンオフだけで、筋肉のように速く、大きく、方向性のある動きを繰り返すヒドロゲルの開発に成功したと発表した。
物質・材料研究機構(NIMS)は2015年8月11日、理化学研究所および東京大学と共同で、内部の静電反発力のオンオフだけで、筋肉のように速く、大きく、方向性のある動きを繰り返すヒドロゲル(3次元のナノ網目構造を水で膨潤させたゼリー状物質)の開発に成功したと発表した。
ある種のヒドロゲルは、温度などの外部刺激に応答し、可逆的に収縮・膨潤することが知られている。こうしたヒドロゲルは、生体に似たアクチュエータとして注目され、人工筋肉としての応用が期待されているという。しかし、従来のヒドロゲルアクチュエータは、刺激に応答して可逆的に脱水和・水和するポリマーの網目で構成され、外界との水の受授を伴う体積変化を動力源としており、動作速度が遅く、動きに方向性がないため、水中での利用に限られるなどの問題があった。
同研究グループでは、互いに静電反発する無機ナノシートを平行に配向させ、これらを刺激応答性のポリマーでできたヒドロゲルの中に埋め込むことで、従来とは異なる原理に基づくヒドロゲルアクチュエータを開発した。構成要素に典型的な温度応答性ポリマーであるN-イソプロピルアクリルアミドを採用し、同ポリマーでできた網目の中に、磁場により配向した無機ナノシートを埋め込み、ヒドロゲルアクチュエータを合成した。
合成したヒドロゲルアクチュエータは、収縮・膨潤による体積変化ではなく、加熱・冷却によって起こるナノシート間の静電反発力の増減を動力源としている。ポリマーが高温で脱水和した状態では、水分子の運動が増すためヒドロゲル内部の誘電率も高くなり、ポリマーが低温で水和された状態では、水分子の運動が抑えられるため、ヒドロゲル内部の誘電率は低くなる。このように、ポリマーの脱水和・水和を通じて内部環境をスイッチすることで静電反発力が増減し、ヒドロゲル全体がナノシートの垂直方向に伸縮。この伸縮は、劣化を伴うことなく何度でも繰り返すことができる。また、従来のヒドロゲルアクチュエータで最高速となる70%/秒の伸縮速度を達成した他、外界との水の受授を伴わないため、さまざまな環境下で動作できる。さらに、ナノシートの配列方向を工夫するで、決まった方向に歩行し続ける生物のような運動を作り出すことも可能だという。
今回開発されたヒドロゲルアクチュエータは、その質と量から、人工筋肉の実現につながることが期待されるという。また、温度応答性ポリマーの脱水和・水和を誘電率のスイッチングに利用するという発想は、アクチュエータ以外のスマート材料に適応できる可能性があるとしている。
同研究は、理研創発物性科学研究センター創発ソフトマター研究グループの相田卓三グループディレクター(東京大学大学院工学系研究科教授)、同創発生体関連ソフトマター研究チームの石田康博チームリーダー、NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の佐々木高義フェローらの共同研究グループによるもので、2015年8月10日に英科学誌「Nature Materials」のオンライン版に掲載された。
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