学生フォーミュラカーにバスケットゴール、人間も!? トポロジー最適化やってみた!:学生による2事例(2/2 ページ)
構想設計においてトポロジー最適化を活用する例が増えている。学生フォーミュラや美大生が構想設計ツール「solidThinking Inspire」を使った事例を紹介する。
美大でもデジタル教育が進む
Inspireは美術系の教育現場でも利用されている。東京藝術大学 美術学部 建築科 准教授の金田充弘氏は、工業デザインや建築を学ぶ学生がInspireを使いながら身近なものを設計、最適化する課題に2カ月かけて取り組んだ例を紹介した。
東京藝大は伝統的に日本画や工芸などアナログなモノづくりに強みを持つが、デジタルでのモノづくりツールの導入も進めている。1年次から3D CADやレーザーカッター、3Dプリンタなどを使える環境を用意しているという。最終的に創作活動に取り入れるかは自由だが、こういったものが存在し、そしてこれらのツールは「その気になれば使いこなせるものだということは学べるようになっている」と金田氏はいう。
「デジタルツールを使うと画一的な結果が出てくるのではないか」という懸念が、特にアナログな分野ほどあるものだ。だが例えばレーザーカッターで平たいものを加工しても、3D的な自由な形態やテクスチャが作れる(図)。「使っていると、デジタルなプロセスでもオリジナルなモノづくりができることを学生も理解していく。こういった活動からデジタルとモノづくりの融合をうまく導き出せれば」と金田氏は述べた。
Inspireは工業デザインや建築設計に取り組む学生に、工学的な感覚を養うツールとして使ってほしいという。今回の課題では、まず自分の設計したいものを考えた上で、それに対して最適化ツールを使う形にした。学生たちの考えた最適化する対象として、過去に自分が作ったイスの再検討や、バスケットゴールや自転車のフレーム、有名な建築家の建物、さらには神社の鳥居や人間の形といったものまであった。
解析結果はあくまでデザインのヒント
エンジニアであれば、より軽量によりコストを削減するという明確なゴールに向かって最適化していくが、デザイン的な最適は必ずしも明確にゴールとの距離を測れるわけではない。デザインする学生にとって重要なのは、「自分のほしいデザイン」を得ることだ。デザインが固まってくると数値化できる状態になり、いわゆる本来の最適化が可能になるが、Inspireで自分のよいと思う解が出ない場合は設計領域や条件を変えたりしていく。
バスケットゴールの最適化では、ゴールの後ろからでも観戦しやすい形をデザインしたいという希望があった。Inspireでの計算とデザインの修正を繰り返すうちに、デザインは満足の行く、ただし最初のスケッチとは違った形に固まっていった。本人が考える範囲では出てこないアイデアを得てデザインを進化させた例だ。本人はさらに構造解析にも取り組もうとしているといい、Inspireを使ったことで、素材の強度や作り方にも目を向けるきっかけになったとのことだ。
力の流れを感覚でつかむ
特に変わったアイデアだったのが、「人の形を最適化してみたい」という例だ。ただし骨や筋肉などさまざまな材料からなる人間は難しいため、マネキンに取り組むことにした。腕、足、胴体とパーツごとに分けて、いろんな荷重を掛けた。その結果の一部が下図だ。残念ながら、これは実際のデザインにはつながらなかった。だがたくさん行った試行錯誤の経験を通して、荷重の流れと形態の関係を考えられたという意味では、今後デザインを考えるうえで生きてくるだろうという。
間違いからもインスピレーションを得る
自転車の例では、なぜタイヤはさまざまなデザインがあるのにフレームには変化がないのだろうという疑問から、フレームの最適化に取り組んだ。この場合は初めのイメージを作らず、まず最適化を行ったが、実は荷重のかけ方などを間違っていた。ただ進めて行く中で、一筆書きになるような形態が出てくることに注目しており、間違いが分かった後も、一筆書きのアイデアを盛り込みながらデザインした。このように間違った解析からもデザインのヒントが得られる場合もある。
金田氏が携わる建築分野でも、工学的に最適な形がいつも採用されるわけではない。合理的でも非合理的でもなく、合理的な解の周辺が一番バランスがよいといわれているという。単に最適解を目指すのではなく、社会的な要因や使う人の感性などを考えると、その近傍を模索するのが設計者やデザイナの目指すところだろうということだ。
金田氏はInspireは工学的な感覚を身に付ける訓練ツールとしてとても面白いのではないかと話す。ツールをまず与えて好きな人にはどんどん使ってもらい、手になじんでいくことで、教育の質も変わるのではないかということだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 学校に3Dプリンタがやってきた! 高校生が初めてのデジタルものづくり体験
千葉県立犢橋高校で3次元CADと3Dプリンタを使った授業が行われました。授業に挑戦したのは、3カ月前まで1度も3次元CADを触ったことがなかった1人の先生。果たして授業は成功したのでしょうか。 - 全日本学生フォーミュラ開催! 岩手県連合チームがTVD搭載EV車両で初出場
自動車技術会は「第13回 全日本学生フォーミュラ大会」の開催概要を発表した。今回は大会初日に開会式が行われる他、初めて交流会の開催が決定し、参加者とスポンサー企業との交流の場が設けられる。 - 製造業で働くビジョンも浮かぶ! 学生たちが創意工夫する「金型グランプリ」
学生チームが約半年を掛けて金型の設計から量産までを行う金型グランプリ。プレス金型とプラスチック金型の課題に対して、さまざまな創意工夫を盛り込んだ金型や成形品が発表された。 - 開催まであと少し! 「第12回 全日本学生フォーミュラ大会」 試走会リポート
2014年9月2〜6日の5日間、静岡県袋井・掛川市内の小笠山総合運動公園(通称「エコパ」)で「第12回 全日本学生フォーミュラ大会」が開催される。その試走会が同年8月5〜6日に富士スピードウェイで行われた。 - 「シンプルなマシン」がEV部門を連覇――静岡理工科大学に密着取材
「第12回 全日本学生フォーミュラ大会」が2014年9月2〜6日の5日間、静岡県袋井・掛川市内の小笠山総合運動公園(通称「エコパ」)で開催された。MONOistでは、EV(電気自動車)部門を連覇した静岡理工科大学チームを密着取材。勝利の秘訣は「シンプルなマシン」というコンセプトだった。