「Project Brillo」に見るGoogleのIoT戦略:GoogleのリビングIoT戦略(2/3 ページ)
「Android@Home」の夢を再び。「Nest」を送り出したGoogleは家庭内にそのターゲットを定め、「Project Brillo」を投入する。Amazonの「Amazon Echo」やApple「Homekit」とリビングのIoTを巡る争いが過熱しつつある。
Project Brilloは「Android@Home」の進化形
Googleの本格的な「家」への取組みは2011年にさかのぼる。
同年、GoogleはGoogle I/O 2011で「Android@Home」を発表した。これは、Android OSを家庭内の電子機器に搭載することにより、スマートフォンなどAndroid搭載デバイスから電子機器を一元管理・制御し、スマートホームを実現する構想だ。具体的には、開発者向けに専用フレームワークを提供、白物家電やAV機器など家電製品に組み込むことにより、Android OS搭載デバイスをリモコンとして活用できるというものだった。
翌年の2012年、GoogleのGlobal Partnership DirectorのJohn Lagerling氏はAndroid OSの位置付けについて「電気が流れている全てのものを、効率よく便利で人間をサポートするようにしていきたい。詳細は言えないが、家の中をプラットフォームにしたら何ができるかを考えている」とインタビューに答えている。Googleが家を狙っていることは明白であった。
しかし、Android@Homeが語られることはなくなった。自然消滅したといっても過言ではない。Android@Home発表の際にお披露目された「Android搭載電球」が製品化されることはなかった。
Project Brilloは、Android OSとともに、このAndroid@Homeの後継だと考えられる。当時、Android@HomeのハードウェアディレクターだったJoe Britt氏は「アクセサリを“スマートフォンにつながるデバイス”と考えた時、どこまで(範囲を)広げられるだろうか?と考えた。電球はアクセサリとなりうるのか。食洗機はアクセサリとなりうるのか」と話している。答えは恐らく、前者はNoで後者はYesだっただろう。
ただし、後者(家電)もDecor社のAndroid搭載スマートオーブンなどが登場したもののその数は少なく、普及には至らなかった。それでもハイアールなどは現在もAndroid搭載家電を提供しており、Android@Homeのコンセプトは継承されている。
一方でProject Brilloは、当時は適さないと考えられていた電球などが対象となっている。つまり、Androidから派生し(derived)、Android@Homeではリーチできなかった省電力デバイス向けに最適化(polished)された、「Brillo」(スペイン語で“輝き”の意味)なOSに形を変えてAndroid@Homeを継承し、過去の「No」を「Yes」に変えている。
これからのIoT時代において、あらゆるデバイスが通信機能を持ち、相互通信することが想定されている。そのような中、Project Brilloのようが省電力デバイスに対応することは必然であり、時代の流れに対応したといえる。
Nestの限界
以前に掲載した(家庭内IoT標準化を巡る動向:「家」を変えたサーモスタット「Nest」)にて詳しく紹介したが、Googleは2014年1月にスマートサーモスタットの「Nest Labs」を32億ドルで買収している。
買収当初、なぜGoogleがサーモスタット1製品しか取り扱いのないNestを買収したのかについてさまざまな臆測が飛んだ。だが、今やその目的は明白である。Googleが買収したのは、サーモスタットという「プロダクト」でなく、Nestという「サービス(プラットフォーム)」なのである。
2014年6月に発足した開発者向けプログラム「Works with Nest」により、あらゆるメーカーがそれぞれのデバイスをNestサーモスタットに接続し、サーモスタットが収集・学習した情報を活用してサービスを展開することが可能となった。このようにしてGoogleは、スマートサーモスタットをトリガーとして、「家」の中に参入したのである。
しかし、このプラットフォームにも制限がある。「Nestサーモスタットが家庭にあることが前提条件」なのだ。Nestサーモスタットは、米国ではかなり注目されているデバイスであり、一部報道では100万台以上を売り上げる人気となっている。しかし、まだグローバル展開されていない上に、日本を含めセントラルヒーティングが主流でない国での普及は難しいと考えられていることから、一定規模以上の市場拡大は期待できない。
一方、Project Brilloは特定のデバイスに縛られない。Weaveさえ実装できれば、Brilloなしでもデバイス間通信が可能だ。また当然のことながらWorks with Nestとも連携する予定となっている。Weaveがさまざまなデバイスに実装されるにはかなりの時間が必要とされるだろうが、Nestと連携さえすれば、Googleは既に顧客ベースを保有しているとも考えられる。
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