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AUTOSARとは?/What is AUTOSAR?−2015年版−(前編)AUTOSAR〜はじめの一歩、そしてその未来(1)(3/4 ページ)

量産車にもすでに適用されている車載ソフトウェアの標準規格「AUTOSAR」。しかし現在も、AUTOSARとそれを取り巻く環境は刻々と変化している。本連載では、2011年に好評を博したAUTOSARの解説連載「AUTOSARとは?」の筆者が、2015年現在のAUTOSARの仕様や策定状況、関連する最新情報について説明する。

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会員組織

 会員種別は5つ存在する。現時点でのそれぞれの会員数を以下に示す※8)。上から3つが基本種別、残る2つが特殊な種別である。AUTOSARに加入している自動車関連企業は、一般には基本種別のいずれかに属している。

  • Core Partner(コアパートナー、9社)
  • Premium Partner(プレミアムパートナー、45社/団体) 負担(基本):年会費1万7500ユーロ、および工数として1.5FTE(full-time equivalent、フルタイム当量)
  • Associate Partner(アソシエイトパートナー、106社/団体) 負担:年会費1万ユーロ
  • Development Partner(デベロップメントパートナー、28社/団体)
  • Attendee(アテンディー、15社/団体)
AUTOSARの会員を構成する3つの基本種別
AUTOSARの会員を構成する3つの基本種別 出典:AUTOSAR

 なお、AUTOSAR規格書は、公式Webサイトで会員以外にも広く一般に公開されているが、その内容には会員各社の知的財産も含まれる。AUTOSAR規格の商用利用の権利は、AUTOSAR会員(少なくともアソシエイトパートナー)となることで得られる。また、AUTOSAR規格に自社固有要求を反映させたいのであれば少なくともプレミアムパートナーになる必要がある。

 基本種別の会員の持つ権利/義務を簡易的に大小関係で表すと、以下のようになる。

コアパートナー>プレミアムパートナー>アソシエイトパートナー

AUTOSAR採用の現状(2015年6月版)

 2011年2月当時は、量産開発においてはAUTOSAR Release 3.x(R3.x)系が主であり、R4.x系では、まだ実用には程遠いレベルのR4.0 Rev.1しか発行されていなかった。また国内では、ごく一部を除いては評価や先行開発が主であった。

 2015年6月現在、実用化(量産車への採用)の面では、欧州自動車メーカーを中心にAUTOSARが広く採用されており、また他の地域にも広がっている。日本でもトヨタ自動車の採用が公表されている※9)

 採用される「バージョン」(後述)の傾向では、量産開発におけるAUTOSAR初導入の際に採用したのがR4.x系であるという自動車メーカーが続々と登場しており、全体としてはR4.x系の比率が高くなってきている。R4.x系の中では、最新のR4.2 Rev.1よりも、むしろR4.0 Rev.3の方が圧倒的に利用比率が高い。

 また、R3.x系もさほど減らずに引き続き利用されており、それらを採用する自動車メーカーでのR4.x系への本格的な移行はこれからのようである。プラットフォームとしてのAUTOSARは、再利用可能な設計資産を構築する上での土台であり、最新のものへの移行を繰り返すよりもむしろ、しばらくは使い続ける(立ち止まる)ことで投資回収を行う機会を積極的に確保しなければならないことから、これは自然なことである。最新版を使用することが必ずしもベストだとは限らない。

2020年までAUTOSAR規格はR4.x系の改訂が続く

 AUTOSARの規格書開発の面においては、既にLoKI(List of Known Issues)フェーズに入っているR3.x系では改訂作業が打ち切られ、既知の問題点のリストの公開のみの安定した段階に入っている(LoKI更新:R3.1は2016年までは継続、R3.2は今のところ更新打ち切り時期は未定)。

 またR4.x系では、機能安全(ISO 26262)、マルチコア、Partial Networking、CAN FD、セキュリティや車載イーサネットといった新たなキーワードへの対応や、作業分担を容易にするための改善など、多数の変更がなされている。現在最新のR4.2 Rev.1に続いてまもなくRev.2が発行される予定である。

 さらに2017年にはR4.3も続き、2020年までは改訂を継続するevolution phaseが続く。加えて、これまでのOSEK/VDX系のリアルタイムOS(AUTOSAR OS)ではなく、POSIX系OSの利用を前提とした新たなプラットフォーム「AUTOSAR Adaptive Platform」の開発も始まっている。なお、それと対比する形で、これまでのプラットフォームは「AUTOSAR Classic Platform」と呼ばれ区別されている※10)

 このようにして、これからもAUTOSAR規格書の開発と改訂は続く。従って、AUTOSARに対応するということは、「変化するゴールに対して追随し続けていく」という側面を持つことも意味する。そしてその中で、先に述べたように「積極的に立ち止まる」ということも求められる。これらのことはあらかじめ考慮に入れておかなければならない。

 なお、AUTOSAR Classic Platformを全面的に置き換えるような規格は、筆者の知る限りでは今のところ登場していない※11)

注釈

※8)2015年6月8日時点で、AUTOSAR公式Webサイト上に公開されている情報に基づく。

※9)出典:3rd AUTOSAR Open Conference(Frankfurt, 2011-05-11)<http://www.autosar.org/fileadmin/files/events/2010-05-11-3rd-autosar-open/04_AUTOSAR_CP_Exploitation_Plan_2011_OpenConf2011.pdf>

※10)出典:7th AUTOSAR Open Conference(Detroit, 2014-10-22)<http://www.autosar.org/fileadmin/files/events/2014-10-22-7th-autosar-open/Current_Status_and_Future_of_AUTOSAR_Bechter.pdf>、<http://www.autosar.org/fileadmin/files/events/2014-10-22-7th-autosar-open/Welcome_to_the_7th_AUTOSAR_Open_Conference_Flores.pdf>

※11)もちろん、いつかは今のAUTOSARは使われなくなるであろう。ただし、その兆候は今のところ見えない。時折、AUTOSAR採用に関する議論において、「永遠に使われる保証がない、いつかは置き換えられる(かもしれない)」ということについての懸念を耳にすることもあるが、これは「人間はいつか必ず死ぬ」ということに対する懸念と何も変わらない。いくら確実なことでも、そのような情報にはほとんど価値(情報量)はなく、重視すべきではない。プラットフォーム開発においては、参照する情報の価値や寿命が極めて重要な役割を果たすので、その評価や取捨選択を可能な限り正しく行うことは極めて重要である。
 なお情報量については、「平均情報量」(あるいは情報論のエントロピー、あるいはShannon情報量)の定義もご確認いただきたい。情報系の学部や学科では学ぶはずである。例えば、二択の場合に、50%予測が当たるという不確実な現象(コイン投げなど)の結果の情報を事前に得ることは極めて価値が高いが、100%予測が当たる確実な現象についての結果の情報を事前に得ても意味はない。しかし「確実な答え」というラベルが付いているというだけで過大評価されてしまうことはないだろうか? 現象の性質を考慮せず、確実さのみで情報の価値評価を行ってしまっていないか、と振り返ることは必要かもしれない。
 また、0%予測が当たる(100%予測とは逆になる)現象に関する事前情報の価値についても、ぜひお考えいただきたい。


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