血液透析の穿刺に最適なヘッドマウントディスプレイが単眼式になった理由:医療機器ニュース(1/2 ページ)
ブラザーのヘッドマウントディスプレイ「エアスカウター」の医療用モデルは、東京大学医学部附属病院との共同研究によって生み出された製品だ。超音波検査装置の画像を見ながら血液透析のための血管に針を刺す(穿刺する)のに使いやすくするため、さまざまな改良が施されている。
ブラザーは2015年7月13日、東京都内で会見を開き、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)「エアスカウター」の新製品を発表した。同年7月下旬発売予定で業務用モデルの「WD-200A」と、10月下旬発売予定の医療用モデル「WD-250A」の2機種である。価格はオープンプライスだが、WD-200Aの市場想定価格は約25万円程度。医療機器メーカーへの納入も想定するWD-250Aは「WD-200Aより高機能なので25万円よりは高い」(同社)ものの、市場想定価格は明らかにしなかった。
国内販売目標台数は発売から3年間で約1万2000台(業務用と医療用の販売比率はおよそ1:1)。2015年末から海外展開も開始し、その後3年間で世界約3万台の販売を見込む。
同社は、2005年開催の「愛・地球博」でHMDの開発品を出展した後、2012年6月から業務用HMDとしてエアスカウター「WD-100」を商品化した。WD-100の販売台数について、「本格的採用事例は少なく、ほとんどの用途が試用評価だったので詳細な台数の公開は控えたい。しかし、今回の新製品2機種には、試用評価の結果が反映されており、HMDを本格的に実用化段階に進める商品に仕上がっている」(ブラザー工業 常務執行役員の松本勇美夫氏)という。
エコーをすぐそばで確認しつつ、穿刺をするには
医療モデルのWD-250Aは、東京大学医学部附属病院 22世紀医療センター 腎疾患総合医学講座 特任准教授の花房規男氏と共同で開発した製品だ。主な用途は、糖尿病や腎疾患などで必要になる血液透析を行う際に、専用の血管である「バスキュラーアクセス」に、超音波検査装置の画像を見ながら針を刺す「エコーガイド下バスキュラーアクセス穿刺」である。
会見では、花房氏が登壇し、共同研究に至る経緯や、エコーガイド下バスキュラーアクセス穿刺に使いやすいエアスカウターの開発、他分野の医療領域への応用などについて説明した。
花房氏の専門は血液透析だ。血液透析では専用のバスキュラーアクセスと呼ばれる血管に針を刺す(穿刺する)ことを求められる。しかし近年は、血液透析を必要とする患者の背景因子の変化(高齢化、糖尿病、長期患者など)を受け、バスキュラーアクセスに穿刺するのが難しい患者が増えている。
また、1人当たりのスタッフが受け持つ患者数が増えているため、より大勢の患者に穿刺を行わねばならない。花房氏は、これらの課題を解決する方法として、超音波検査装置の画像を見ながら穿刺を行う、エコーガイド下バスキュラーアクセス穿刺を普及させたいと考えていたという。
しかし、超音波映像(エコー)を見ながら穿刺を行う際には、エコーが映し出されるディスプレイ画面と、実際に手技を行う場所を交互に見なければならない。これでは、作業者の技能レベルに関係なく、作業負荷が掛かるとともに、穿刺時の安全性も確保しづらいという課題があった。「そこで、エコーをHMDに表示させれば、視点の移動を最小限にしながらエコーガイド下の穿刺ができるのではないかと考えた」と花房氏は話す。
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