「受注生産」から「ライン生産」へ、新ロケット「H3」は商業市場に食い込めるか:宇宙開発(3/3 ページ)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が新型基幹ロケット「H3」の概要を公開した。シミュレーション解析や民生部品の活用などでコスト低減を進め、商業打ち上げ市場に食い込むべく「事業開発ロケット」と位置付けるが、官需からの脱却に成功するかは不透明だ。
日本のロケットは生き残れるのか
H3ロケットで抜本的な低コスト化を進めるのは、このままでは近い将来、日本独自の宇宙輸送手段が維持できなくなるという危機感が背景にある。
現在H-IIA/Bロケットはほぼ官需に依存しているが、それだけでは機数が限られ、宇宙分野から撤退する企業も相次いでいる。今後、官需は縮小が見込まれており、その分を商業市場で補う必要があるのだ。
H3プロジェクトの岡田匡史プロジェクトマネージャは、「H3は技術開発ではなくて事業開発。顧客の声を第一に考えたロケットになる」と説明する。そのために、まず顧客へのヒアリングを行い、要望を分析。世界トップクラスの信頼性とコストを実現しつつ、柔軟性などサービス面にも注力するという。
ただし、状況は決して楽観できるものではない。現在でも、米SpaceXの「Falcon 9」ロケットの打ち上げコストは既にH-IIAの半分程度。さらに各国で新型ロケットの開発が進められており、H3はそれらと勝負しなければならない。商業市場に食い込み、打ち上げ機数を確保できないと、50億円という価格の実現も難しくなってしまう。本当に海外から顧客を持ってこられるのか、見通しは不透明だ。
今後のスケジュールであるが、基本設計は2015年度で終わらせ、2016年度から詳細設計を開始する予定。実機の製作は2018年度から始め、試験機1号機を2020年度、試験機2号機を2021年度に打ち上げ、結果の評価を経て、運用段階へ移行する計画だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ミッション達成の“ミニはやぶさ”「プロキオン」、エンジン停止をどう乗り切るか
東京大学とJAXAが、「はやぶさ2」とともに打ち上げた超小型探査機「PROCYON」(プロキオン)の運用状況を説明した。予定したミッションの大半はクリアしたが、エンジン停止に見舞われている。その打開策は。 - 勤続17年の日米共同開発観測衛星「TRMM」が残した気象予測技術の進化
JAXAは東京都内で2015年4月上旬にミッション終了が予定されている熱帯降雨観測衛星「TRMM(トリム)」についての説明会を開催。宇宙から雨を観測する衛星として初の日米共同で開発されたTRMMは、約17年という当初の計画を上回る長期観測を続けてきた。今日の気象観測に大きな貢献を果たしたTRMMの功績を振り返る。 - 「はやぶさ」の電力制御は“いい感じの割り勘”方式?
エレクトロニクス製造・実装技術展「インターネプコン ジャパン」の基調講演に宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 教授でシニアフェローの川口淳一郎氏が登壇。「『はやぶさ』プロジェクト発のスマートエネルギー技術」をテーマに、サーバ・クライアント間通信を必要としない電力制御装置の新方式を紹介した。