移植細胞を表面に置く新たな手法で、聴神経の機能再生に成功:医療技術ニュース
京都大学は、新しい細胞移植法を開発し、音を聞き取るための聴神経の機能を再生させることに成功したと発表した。細胞を神経表面に置く表面移植法で、細胞が瘢痕(はんこん)組織を利用して神経を再生した。
京都大学は2015年6月16日、同大大学院医学研究科の関谷徹治研究生らの研究グループが、新しい細胞移植法を開発し、音を聞き取るための聴神経の機能を再生させることに成功したと発表した。同成果は、同日に米科学アカデミー紀要に掲載された。
神経細胞を送り込み、失われた神経機能を回復させようとする「細胞移植治療」では、移植された細胞の大部分が短期間の内に死んでしまうという問題がある。これは、中枢神経細胞が死んでいくときにできる「瘢痕組織」が硬いことから、移植された細胞が生き延びることができないためだと考えられてきた。
同研究グループではまず、人の病気で見られる瘢痕組織をラットの聴覚神経系で再現した、聴神経瘢痕化モデルを作製。これに細胞を表面に置く「表面移植法」を行ったところ、表面移植された細胞は、瘢痕化した神経内に次々と入り込み、瘢痕組織を利用しながら形を変えつつ、長期間にわたって生き続けた。3カ月後にラットに音を聞かせると、聴神経の機能が改善していることが判明。顕微鏡による観察でも、移植された細胞がシナプスを介して元の神経と連結していることが確認されたという。
同成果は、「中枢神経内にできた瘢痕組織は、神経再生にとって有害である」という従来の定説を覆すものでもあり、大脳や脊髄への細胞移植法に関しても再考を促すものになるという。
また、表面移植法は、神経系に新たな傷を作ることなく細胞移植ができるため、今後は筋萎縮性側索硬化症(ALS)やポリオの疾患モデルを用いて検討していくという。さらに今回の実験では、長く伸びた神経突起が中枢神経内に入って行く現象も同時に観察されたため、中枢神経のより深い部位にある神経変性に対しても表面移植法による細胞移植実験を試み、その可能性について検討する予定だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ダイキンがオープンイノベーション拠点を設立――京大との包括提携も
ダイキン工業は新たにオープンイノベーション拠点を2015年に設立する。合わせて京都大学との包括提携も発表。産学の幅広い知識や技術を呼び込み、イノベーション創出を目指す方針だ。 - 非円形歯車を介した変速が変速機の「駆動力抜け」と「変速ショック」をなくす
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と京都大学は、独自設計の非円形歯車を用いて、変速時における駆動力抜けと変速ショックが全く発生しない変速機を開発したと発表した。非円形歯車の動作の様子も映像で紹介されている。 - 東大と京大が1Xnmノード対応の電子ビーム描画装置を購入、アドバンテストから
アドバンテストは、1Xnmノード対応の最新の電子ビーム描画装置「F7000シリーズ」が、東京大学と京都大学、半導体関連企業から計3台の受注を獲得したと発表した。2014年3月末までに出荷する予定。 - 東アジア最大の天体望遠鏡を実現する3つの新技術
京都大学 宇宙総合学研究ユニットの特任教授でありユビテック顧問も務める荻野司氏が、東アジア最大となる口径3.8mの光学赤外線望遠鏡の開発プロジェクトについて語った。同望遠鏡の開発には、日本発のさまざまな技術が利用されているという。 - 映像に酔うと右脳と左脳の活動の相関が低下
京都大学は、映像に酔うと、映像の動きを検出する脳部位(MT+野)の活動が右脳と左脳で乖離(かいり)するという現象を、脳機能イメージングを用いて発見した。車酔いや船酔いなどの動揺病が生じる仕組みの理解につながることが期待できるという。