量子電池「バテナイス」は夢に終わるのか、多くの技術的課題が発覚:電気自動車(3/3 ページ)
化学電池も、物理電池も超える“量子電池”として話題をさらった日本マイクロニクスの「バテナイス」。しかし、多くの技術課題が見つかったため、研究開発体制を変更することになった。
6時間放置で50%放電
さらに大きな問題も見つかった。「当社においても、バテナイスの特性評価を進めた結果、目標性能以外の性能の点でバテナイスに関し自己放電が大きいなどの技術的な課題が存在し、その解決が容易でない可能性があると考えるに至った」(日本マイクロニクス)というのだ。
同社が挙げる「その他の技術的課題」は3つ。1つ目は「自己放電率」だ。ガラス基材のバテナイスで、6時間放置すると容量の50%程度しか電力が残らないのだという。2つ目の「充放電効率」では、充電エネルギーに対する放電エネルギー量の割合が50〜85%になることが分かった。つまり、最悪の場合で充電した電力の50%しか放電できないわけだ。
3つ目の技術的課題は「積層技術」。バテナイスは、シート基材となる金属薄膜の上に負極となる電極膜を形成し、その上に充電層となる酸化物半導体の薄膜、負極となる電極膜を順番に積層した構造になっている。そのシートへの積層によって、サイクル寿命の低下が観察されている。
日本マイクロニクスは2015年5月に、ロールツーロールの設備を導入し、ロールシートにバテナイスを形成する環境を構築した。これまでシートで得た性能をロールシートで実現するためのプロセスの最適化を行っている。一度により多くのバテナイスを試作できるようになったので、3つ目の技術的課題である積層技術の開発を進める考えだ。
しかし、目標性能が未達で、短時間での自己放電や放電エネルギー量の割合の低さなど、二次電池として利用する上では解決すべき問題が山積している。そのために「複数の大学との共同研究」を始めるわけだが、パートナーとなる大学や研究室の名前は明らかになっていない。
日本マイクロニクスは「当社は今後、大学などとも連携しつつバテナイスの目標性能の達成および自己放電などの課題の解決のための研究開発を継続するとともに、バテナイスの特長を生かした用途での製品化を目指す。もっとも、製品化に際しては、コストなどの観点での検討も必要であり、当面は、高付加価値で利益の得られる応用分野での製品化を検討していく予定である。なお、想定される市場が限られる場合、必要に応じて戦略を見直すこともある」としている。
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