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CAEエキスパートが見て・感じた! CAEの最新技術動向&ユーザー事例CAEセミナーレポート(1/3 ページ)

2015年5月に独ベルリンで仏ダッソー・システムズによる「Simulia Community Conference 2015」が開催された。機械メーカーのCAEエキスパートである筆者が、イベント内の講演やユーザー事例について、自身の経験談や業界事情も交えて紹介する。

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 独ベルリンで仏ダッソー・システムズ(以下DS)による「Simulia Community Conference 2015」(会期は2015年5月18〜21日、以下SCC2015)が開催されました。18日はトレーニングのみ(参加費別途)が行われ、19〜21日の3日間でユーザーからの事例発表とDSのCEOらによるプレゼン、基調講演(Keynote speech:本年は「エアバス(Airbus)」と「エクソンモービル(ExxonMobil)」)などが実施されました。2015年は事例の発表数・参加者数が近年で最大とのことで、8個の並列セッションにより3日間で合計94件の発表が行われ、会場にはユーザーとDSの社員も合わせて500人を超える方々が参加しました。

 今回のSCCでは、“Simulation Powers Innovation”をキーメッセージとして、CAEソフト「Simulia」を活用してイノベーションを加速するという挑戦的なビジョンが示されました。CAEソフトはその機能の特殊性から専門家がクローズされた環境で使うものと認識されがちですが、近年ではCAEソフトそのものの改善に加えCADや周辺環境との連携が進むことにより設計者・開発者の意図をくみやすくなっており、まさに「シミュレーションが開発を加速する」ということは実現されつつあると筆者は思います。

 ユーザー発表に関しては、他のソフトのユーザー会と異なる点として、もともと「Abaqus」のユーザーが研究者肌の方が多いせいか、自社の技術アピールをするというよりは、課題をしっかり捉え、それをどのように解決したか、残された課題は何なのか、論理的に理路整然と構成された発表が多い点が挙げられます。業種としては航空宇宙、自動車関係に加え、今回は建築・土木関係の企業からの発表が目に留まりました。

 技術分野も多岐にわたりますが、筆者の興味対象である、実測データとの整合性、シミュレーションの効率化や環境構築に的を絞って聴講しましたので、その内容を中心に報告します。

CAE要素技術開発の動向

実測とシミュレーションの整合性、強度・疲労評価について

 われわれのように製造業において設計開発にCAEを活用する際、「それ、現実と合ってるの?」という問いかけに常に答える必要があります。一方で、「計算工学」という学問分野が確立されていることから分かるように、計算技術そのものを理解して活用することに相当のリソースが必要となっているのも現実です。問題はその計算技術そのものにフォーカスし過ぎてしまって、必要以上に“凝った”解析をしてしまったり、「こんなもんだろう」と当て推量で条件を決めてしまって現実を表現できない解析になってしまうことが往々にして起こることにあります。

 工学系の事例ではありませんが、シミュレーションというくくりで一番世の中の先頭を走っているのは天気予報ではないでしょうか。気象予測モデルによるシミュレーションと過去のデータを関連付け、近年非常に高精度で予測ができるようになっています。一方でよく耳にするのが、「シミュレーションやったのに全然現実と違うじゃないか!」という声です。これは現実に目を向けずシミュレーションだけでゼロからスタートしようとしたときに起こりがちな問題です。この違いは何かというと、背景に持っている現実のデータの情報の質と量の違いによるところが大きいと筆者は考えています。シミュレーションなのに実測データが必要、何か相反することを述べているようですが、素粒子など純粋な物理学の分野でも理論を検証するために実験が必要なように、理論や計算だけでものが出来上がることはあり得ないのです。

 もちろん一口に実測データといっても製品や扱う現象によってさまざまな切り口があり、どの程度あれば十分かは明確な指針や指標があるわけではありませんが、CAEも単に計算だけをしていればよいということではない、と捉えていただければと思います。

 言うだけなら簡単なのですが、実際の開発プロセスの中で実測データとの整合性をうまく取りながらシミュレーションを行うことは容易なことではありません。次に示す事例では比較的うまくいっているような印象を持ちましたが、ここまでくるのには相当な時間がかかっているものと推察します。

クルーガーフラップへのバードストライク解析(エアバスグループ セバスチャン ヘイムス氏)

 「ハドソン川の奇跡」といわれた事故(USエアウェイズ1549便不時着水事故)を覚えていらっしゃる方も多いと思いますが、鳥(の衝突)が航空機の基幹部品に重大な影響を与えることがしばしばおこるため、その影響を正確に把握し、安全性を確保することが航空機の開発では求められています。ヘイムス氏(エアバスグループ)の事例では、鳥の塊を衝突させる実験(実験の規格があることを初めて知りました)を模擬した解析をどのように精度よく実施したかについて紹介がありました。このような動的挙動は解析のみで定量的に評価するのは難しいことが多いのですが、衝突後の変形状態などを見る限り、十分開発に生かせるところまできているように感じました。


バードストライク(鳥塊の衝突)実験(上)とCAE解析結果(下) Image Courtesy:Sebastian Heimbs, Airbus Group Innovations, Bird Strike Analysis for Impact-Resistant Design of Aircraft Wing Krueger Flap, 2015 SIMULIA Community Conference. The complete manuscript is available http://www.3ds.com/products-services/simulia/resources

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