カーエアコンの冷房はなぜ冷えるのか(後編):いまさら聞けない 電装部品入門(19)(4/4 ページ)
夏場のドライブで大活躍するカーエアコンの冷房機能は、一体どういう仕組みで冷やすことができるのか。後編では、カーエアコンの冷房機能に必要な構成部品と、それらの役割について解説する。
冷媒の流れと状態を復習
それでは一通りの冷凍サイクルを把握したところで、冷媒の状態に焦点を絞って振り返ってみましょう。サブクールシステムをイラスト化すると複雑になりますので、従来の冷凍サイクルで表現しています。
ここで出てくる温度や圧力は、あくまでも一例ですのでご注意願います。
エバポレーターで気化したガス状冷媒は低温低圧の状態です。そのガス状冷媒をコンプレッサーが吸引/圧縮することで高温高圧の冷媒にします。この時点で冷媒温度は約70℃、冷媒圧力は約1.5MPaです。
高温高圧の状態を保ったまま、ガス状冷媒はコンデンサーへと送られ、走行風によって冷やされます。ここでの目的は、高圧の状態のまま沸点以下に冷媒の温度を下げて(圧力が1.5MPaの場合で約60℃)、液状冷媒にすることです。
コンデンサー内ではガス状冷媒と液状冷媒とが混ざり合った状態ですので、レシーバーに一時的に蓄えられます。ここでガス状冷媒を分離し、完全な液状冷媒のみをエキスパンションバルブに送り出します。
通路が急激に狭くなるエキスパンションバルブを強制的に通過することで、液状冷媒はエバポレーター内に噴霧されます。噴霧によって急激に膨張して低圧状態になり、エバポレーター内でブロアファンから送られてきた空気の熱を、フィンを通じて奪いながら霧状冷媒は気化します。そして気化することにより、低温低圧のガス状冷媒に戻り、コンプレッサーに再び吸引されます。
冷凍サイクルの不具合
エアコンの冷房機能が働かない場合、冷凍サイクルに不具合が生じている可能性があります。コンプレッサーやエキスパンションバルブといった主要な構成部品の故障であれば原因を特定しやすいのですが、最も厄介なのがガス漏れです。
エバポレーターで気化した後の低温低圧のガス状冷媒であっても、大気圧よりも圧力は高い状態です。
つまり、エバポレーターに目に見えないような小さな穴が空いたり、亀裂が入ってしまったりしても、その少しのすき間から徐々に冷媒は漏れ出します。ガス漏れが最も起こりやすいのは、各エアコンパイプの連結部や構成部品との接合部にあるOリングなのですが、いずれにしても冷媒は無色無臭の気体ですので、ガス漏れの箇所を特定することは極めて難しいのです。
コンプレッサーのオイルが冷凍サイクル全体を循環していることを利用し、オイルに蛍光剤を混ぜてガス漏れ箇所を特定する方法もあります。しかし、気体は漏れてもオイルは漏れない程度の小さな穴には通用しません。
また冷媒を検知すると音で知らせるリークテスターという専用機器もありますが、微細な漏れの場合は「ここだ!」と判断できるほどの反応を期待できないケースが多々あり、最強のツールとはいえません。
長時間掛けて徐々に冷媒が漏れていくようなケースでは、どれだけ経験を積んだメカニックであってもガス漏れ箇所の特定が極めて困難であることを理解していただければ幸いです。
次回は、カーエアコンのもう1つの機能である「暖房」に関連する「ブロアユニット」と「ヒーター」について紹介します。お楽しみに!
筆者プロフィール
カーライフプロデューサー テル
1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車両検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にしたメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により、自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。
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