音楽ハッカソンから「製品」は生まれるか、求められる「使う人」との関係性:ハッカソンから製品化への道
ヤマハが協賛した音楽形ハッカソンの発展形として、インキュベーションプログラムが3カ月間に渡って行われた。3カ月の成果は「製品」として世に出るのか。
モノづくりカフェ「FabCafe」で、“つくる”をテーマにしたネットワーキング&プレゼンテーションイベントとして開催されているイベント「Fab Meetup」。2015年3月31日に開催された第16回では、ヤマハが主催したインキュベーションプログラムより2チームが参加、3カ月間という通常の楽器製作では考えられない短期間で完成させたプロトタイプを披露した。
ヤマハは過去2回、外部クリエイターと共同で新しい楽器や演奏の創造に挑戦するハッカソン「Play-a-thon」を実施しており、その発展形として、創造だけではなく「事業化」まで視野に入れたプロジェクトとして、インキュベーションプログラムを2015年1月から3カ月間に渡って行った。
チーム「Kurage」が発表したのは、ヒトを必要としない“自律楽器”「Jerrybeans」。卵形のユニットには4つのジョイントがあり、ベースユニット上でユニットを組み合わせるだけで自動的に音楽が流れる。ジョイントの組み合わせで音は変わり、また、内蔵する感圧センサーにより、手でユニットへ触れることでも音は変わる。
各ユニット内にはArduinoを搭載しており、ジョイント接続と感圧センサーからの入力を処理する。音源はMIDI。ジョイント部分には磁石が用意されており、組み合わせ時の安定に寄与している。
チーム「Show4」が紹介した製品(チーム名と同じ「Show4」)は、楽器ではなく、演奏体験をより楽しいものにする演出機器。小型の感圧センサーから得た信号をkonashiで処理してBluetooth LEでiPhoneに送信、iPhone側では入力された信号に応じて、アプリのプレイリストにセットした映像を出力する。
機器としてはシンプルなものだが、スマートフォンと組み合わせることで「演奏と映像のシンクロ」という演出を気軽に楽しめる。
両チームに共通するのが、発表した製品が従来の演奏することで音を出す「楽器」ではないこと。行われたインキュベーションプログラムの目的の1つに「事業化を目指すこと」という項目があり、3カ月という短期間では、既存の楽器をベースあるいはモチーフにしたアイデアでは製品化を目指すモノとしては成り立たなかったようだ。
楽器は使う(演奏)人があってこそ成立する機器であり、モノとして面白い、便利というだけでは成立しない性質を持つ。本プログラムに先だって行われたPlay-a-thonでファシリテーターを務めた、情報科学芸術大学院大学(IAMAS)の小林茂氏は「楽器や演奏というカテゴリーでモノづくりをするとき、使う人との関係性、協力関係が大切になる」と指摘する。
楽器が電気化(電子化)したことで新しい奏法やジャンルが生まれたように、モノづくりにおいても、作り手と使い手の関係性を視野に入れる必要性が高まるだろうというのだ。小林氏はあわせて、「新しいモノを作っただけでは、“それが何か”“何をもたらしてくれるのか”が分かりにくいことある」と、いわゆる個人発のモノづくりにおいて、作ることの自己満足に陥る危険性も指摘した。
このインキュベーションプログラムはFab Meetupでのお披露目を持って終了するが、ヤマハでは2015年3月に「音と音楽をテーマにした価値創造」を掲げるベンチャー支援構想「Yamaha Sound & Music Innovation Platform」の立ち上げを発表しており、Play-a-thonや派生したインキュベーションプログラムで得られたノウハウの活用が期待される。
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