日本で自動運転システムを実用化するために解決すべき5つの課題:2020年に東京で先行実現(3/3 ページ)
自動運転システムの開発を目指す「SIP-adus」では、日本国内で自動運転車を実現する上で解決すべき5つの研究開発テーマを設けている。また、2020年に東京で、自動運転システムを利用した次世代公共交通の実現を目指すことも目標に掲げている。
自動運転システムは社会にどう影響するのか?
SIP-adusは、単に自動運転システムの開発だけでなく、開発した技術によって日本国内における交通事故の削減することを最終的な目標として掲げている。そのため、こうした交通事故の削減などを含め、自動運転および運転支援システムの発展が実社会にどういった影響を与えるのかという波及効果の分析も1つの研究テーマとなっている。同テーマについては、トヨタ自動車の金光寛幸氏が説明を行った。
まず、さまざまな種類の交通事故のマクロデータ解析を行い、事故の種別を分類をしていくという。そのデータを基に、シミュレーション技術を利用して、ドライバーがさまざまな状況においてどういった行動になるかを分析し、どういった自動運転/運転支援システムがあれば事故を防げるかの検証を進めていく。
こうした検証結果を、自動運転に関するさまざまなシステム開発にフィードバックすることで、最適な技術開発を促進する狙いだ。また金光氏は「この研究開発では、シミュレーション技術を利用して、交通環境とそれに応じたドライバーの対応を分析していく。この結果を、交通事故の削減だけでなく、渋滞の低減やCO2削減効果の予測といった部分にも応用していく」と語った。
次世代公共交通の実現に向けた取り組みも
これまで紹介した4つのテーマは、自動車にフォーカスした自動運転システムに関するものだ。SIP-adusでは、さらに自動運転技術とICT(Information and Communication Technology)を活用したした次世代公共交通の開発にも取り組む。シンポジウムに登壇したITS Japanの花井利通氏はその狙いについて「健常者だけでなく、全ての人に優しく使いやすい移動手段と移動情報を提供することが目標。ただ走行速度が速いだけでなく、乗り継ぎ、乗降、料金支払いに要する時間を含めて、出発地から目的地までに掛かる時間を最短化できるものを実現したい」と説明した。
花井氏は、こうしたSIP-adusが目標とする自動運転システムとICTを活用した次世代公共交通のコンセプトとなる「Advanced Rapid Transit(ART)」を紹介した。ARTは、自動運転システムを搭載するバス型の乗り物だ。ARTを通じて、健常者だけでなく、誰でも利用できる高いアクセシビリティを持つ次世代都市交通システムの構築を目指すという。
ARTは、ダイナミックマップの利用やITSを利用した先読み技術など、先述したSIP-adusで開発が進められている技術を結集させたものとも捉えられる。花井氏は「SIP-adusで開発される他の技術を適用しつつ、さらに公共交通システムとして社会に実装するため、地域活動などの取り組みも進めていく」と語った。ARTの運用開始時期については、「2020年の『東京オリンピック・パラリンピック競技大会』を重要な一里塚とする」(同氏)としている。
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