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「悪いバグ」のケーススタディ山浦恒央の“くみこみ”な話(71)(2/2 ページ)

ゲームのバグには「良いバグ」もあり、仕様となったり名物になったりすることもあります。ただ「悪いバグ」があることも事実で、筆者の研究室ではこれを分類することにしました。「悪いバグ」のケーススタディです。

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5.1 分類結果

 収集したバグは全部で1083件、分類数は「その他」を含めて13個にしました。今回は「ユーザー・インタフェース」「レベル・デザイン」「スキル」「アイテム」「ステータス」「データ」のバグに絞って説明します。

  • 5.1.1 ユーザー・インタフェース系のバグ

 UI(ユーザー・インタフェース)は、主にグラフィック系のバグのことで、全体の約20%を占めて第一位になっています。このバグは、「テキストの誤り」「モデリングのバグ」「リスト」や「アイコン」などが中心です。特に、誤字脱字などの「テキストの誤り」は圧倒的に報告件数の多いバグです。

 テキストや、モデルの一部が欠けていたとしても、ゲーム進行には支障は出ません。ですが、ユーザーの目に止まりやすい部分でもあるからでしょうか、報告件数が多くなっています[*2]。

[*2]:昨今、クレーマー問題が話題になっていますが、品質を上げるために「善意のクレーマー」は重要です。善意にしろ悪意にしろ、クレーマーは、「問題の重要さ」より「問題の分かりやすさ」に敏感に反応します。テキストの誤字脱字は、バグが目で見えているし、再現条件も明らか。かくして、「こんなことも分からないのかい?」という少しだけ上から目線で、もしくは、他人の役に立ちたいとの思いで、バグの報告をする人が少なからずいるようです。

  • 5.1.2 レベルデザイン系のバグ

 ゲームの味付けや面白さを決めるものとして、レベルデザインがあります。どんなにグラフィックが良いゲームであってもゲーム内容が悪いと、愛好者から「クソゲー」と言われてしまいます。

 レベルデザインのバグでは、「ゲームが進行不能になる」「クエストが発生しない」「バトル中に進行不能になる」などが報告されています。このバグは、ゲームの肝となる部分です。例えば、ゲームが進行不能になった場合、前にセーブしたデータからやり直す可能性がありますので、ユーザから見ると非常に面倒なバグと言えます。また、開発者のデバッグにおいても、特定の条件が重なって発生するこの種のバグに手こずっている印象が見受けられました。

  • 5.1.3 スキル & アイテム

 「スキル」と「アイテム」は、主にプレーヤーがこれを使用する際に起こるバグのことです。スキルの場合、「スキルが発動しない」「スキルが入手できない」などで、アイテムでは、「アイテムを入手できない」「アイテムが装備できない」などに相当します。

 特にRPGやアクションゲームでは、「技が出ない」「技の効果が正しくない」などのバグが多いように見受けられました。

  • 5.1.4 ステータスのバグ

 ステータスのバグでは、「経験値が手に入らない」「トロフィーが手に入らない」などのプレーヤーのステータスに関係があるバグです。

 データを分析すると意外にも、トロフィーに関連したバグが多いように思います。トロフィーとは、ゲームソフトの「やりこみ具合」を表す指標で、通常、特定の条件を達成すると「○○が達成されました」と表示されるものです。ステータス系のバグの中でもこれが意外に多く、筆者は驚きました。

  • 5.1.5 データのバグ

 データに関係するバグは、全体の6.6%報告されており、しかも影響度が重大なバグです。考え方によっては、最も開発者泣かせのバグでしょう。このバグは、「データが破壊される」「セーブデータをロードできない」「ゲームデータのアップグレードが正常にできない」などで、この種のバグが見つかると、最悪の場合、マニアが集う掲示板やレビューでコテンパンに叩かれる可能性があります。

 セーブデータは、プーイヤーにとって、命と同じぐらい重要なもので、データが消えてしまう場合、プレーヤーの血と涙の結晶を無駄にしてしまいます。

6.終わりに

 今回は、筆者の研究室で行っているゲーム・ソフトウェア品質の研究についてご紹介しました。皆さんは、このケース・スタディにどのような印象をお持ちになられたでしょうか? 読者の中には、「このバグは体験したことがあるぞ」と共感した方もいるのではないでしょうか?

 ゲームでも、その他のソフトウェアのテストと同様に「再現条件の難しいバグ」を完全にテストすることは難しいことが分かります。皆さんも、Webで製品の不具合に関する情報を調べてみると、身近な製品で意外なバグが報告されていることに気づくでしょう。


【 筆者紹介 】
山浦 恒央(やまうら つねお)

東海大学 大学院 組込み技術研究科 准教授(工学博士)


1977年、日立ソフトウェアエンジニアリングに入社、2006年より、東海大学情報理工学部ソフトウェア開発工学科助教授、2007年より、同大学大学院組込み技術研究科助教授、現在に至る。

主な著書・訳書は、「Advances in Computers」 (Academic Press社、共著)、「ピープルウエア 第2版」「ソフトウェアテスト技法」「実践的プログラムテスト入門」「デスマーチ 第2版」「ソフトウエア開発プロフェッショナル」(以上、日経BP社、共訳)、「ソフトウエア開発 55の真実と10のウソ」「初めて学ぶソフトウエアメトリクス」(以上、日経BP社、翻訳)。


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