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「裏技」はゲームのスパイス山浦恒央の“くみこみ”な話(70)(1/2 ページ)

組み込み系の代表例の1つ、ゲームの世界ではバグが「良いバグ」と評価され、「裏技」と呼べる存在になることもあります。“バグが悪ではない”感覚は品質制御の世界観を広げてくれるはずです。

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1.はじめに

 過去2回にわたって組み込み系の代表例であるゲームについて紹介してきました。ゲーム系ソフトウェアは通常の組み込み系と異なり、芸術的な要素を持っていますので、仕様書と異なる動きをする「バグ」でも、プレーヤーが楽しめれば、ゲームのウリになると解説しました。

 ゲーム系のバグには、「悪いバグ」と「良いバグ」があり、「良いバグ」は次のバージョンで「仕様」に昇格したり、「ゲームの顔」になったりします。

 家電製品、自動車、船舶、航空機制御の組み込み系のソフトウェア開発者は、「バグ=悪」と自動的に認識します。でも、ゲームの世界では、バグは必ずしも「悪」ではないのです。一般の組み込み系エンジニアも、ゲーム系技術者のバグに対する感覚を「理解」「修得」し、品質制御の世界観を広げて頂ければと思います。

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2.裏技

 前回に「良いバグ」として紹介したスペースインベーダーの「名古屋撃ち」は、プレーヤーがゲームのバグを利用した攻略テクニックの1つでした。開発者側とすれば、「まさかバグをこんなふうに使われるとは思わなかった……」でしょう([1])。

[1]1908年、ヘンリー・フォードは、T型フォードを作ったと同時に自動車産業を作り、1976年、スティーブ・ジョブズとスティーヴ・ウォズニアックはアップルIを発売したと同時にPC業界を作りました。これと同様に、1978年、西角友宏が設計しタイトーが製造したスペースインベーダーは、「コンピュータ・ゲーム業界」も作ったのです。

 このように、ゲームの仕様の裏をついてゲームを有利に進めたり、実行することで、特異な(自分に有利な)現象をもたらす技のことを、ゲーマーは「裏技」と呼んでいます。裏技は、仮にバグであってもユーザーからポジティブに受け入れられ、話題になって知らない人とのコミュニケーション手段となります。評判の良い裏技になると、次回作の仕様に追加されることがありました。

 エアコンや洗濯機などのゲーム系以外の組み込み製品でも、通常の使用方法と異なる「有効な裏技」は、家庭の知恵として受け継がれています。今回は、組み込み系ソフトウェアの代表格であるゲームの「裏技」について焦点を当て解説します。

3.状況別の「良いバグ」と「悪いバグ」

 ゲームの「裏技([2])」とは、仕様の裏をついてゲームを有利に進めたり、実行すると特異な現象をもたらす技のことです。例えば、「レベルが最大になる」「無敵になる」などのバグを利用するテクニックの他にも、「特定の場所で敵を倒すと、短時間で大量の経験値を獲得できる」などのゲーム攻略法も裏技でしょう。裏技は、「技」の文字が表すように、テクニックが主眼であるため、前回紹介した「ゲームがフリーズする」「テキストが間違っている」などは裏技とは呼ばず、ただのバグ扱いになります。

[2]裏技と言えば、必ずしもゲームに限定されるものではないでしょう。10数年前にテレビ放送されていた「伊藤家の食卓」という番組がありました。そこでは、視聴者が投稿した生活全般の便利なテクニックのことを裏技と呼んでいました。

4.裏技の分類

 ゲームの裏技をきちんと分類した論文を見たことがないので、筆者は、以下のように3つに分類しましたが、これ以外にもあると思います。

  • バグに乗じた裏技(設計者が意識していないバグ)
  • 便利な裏技(複合技による裏技で、バグでない場合もある)
  • 設計者が意図した裏技

 以下、この3つについて説明します。

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