老舗が生んだ革新、“全天球カメラ”誕生の舞台裏:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(3)(3/5 ページ)
“360度の空間を撮影するカメラ”として新たな市場を切り開くリコーの全天球カメラ「RICOH THETA」。そのアイデアはどこから生まれ、そしてそれを形にするにはどんな苦労があったのだろうか。革新製品の生まれた舞台裏を小寺信良氏が伝える。
背中合わせの2つのレンズ
―― 技術的なブレイクスルーについて伺いたいと思います。このコンセプト実現のキーは、背中合わせの2レンズで全天球を撮るというアイデアだと思うのですが、技術的なめどが立ったのはどれぐらいですか。
澤口 2011年ぐらいですね。2010年の秋にチームができてから二眼、三眼、複眼と、さまざまなプロトタイプを作りました。本当につぎはぎで作ったようなモデルをトライアルで作り「どれが一番本当に全天球撮るのに適しているか」という検証を、半年から1年ぐらいかけて行いました。その中で、撮影した映像同士をつなぐところが増えるとそれだけ画像処理の工程も増えるので、できるだけシンプルにしなければならないということを考えました。またコストの問題や小型化できないといけないということを考慮した時に、二眼が最適だろうという解にたどり着いたのです。
光を曲げる
―― それぞれのレンズを考えた時でも、1つのレンズで180度を撮影するようなものはこれまで量産するようなものでもないと思います。映像を合わせることを考えるとレンズそれぞれの精度や特性を合わせることが必要になりますが、製造が大変ではないですか。
澤口 レンズの設計自体は、既存の設計を使っているので製造上の問題はそれほどありません。ただ今回の光学系は、屈曲光学系を使っています。つまりレンズから入ってきた光線を、プリズムを通して左右に曲げて、CMOSセンサーに当てるという設計をしています。このプリズムを調整するところに、製造上の課題が多くありました。これが一番難しかったように思います。
―― そもそも、なぜ光を曲げないといけなかったのですか。
大熊 光学系をストレートにしてしまうと、フランジバックの幅の分だけ長くなってしまいます。そうなると2つのレンズの間が離れてしまうので、画像が美しくつながらなくなってしまいます。また、機器全体を小型化するためにも、曲げることが必要だったのです。
澤口 このプリズムの光学調整のために、専用の治具を新たに開発したり、画像のつなぎ合わせの部分も独自のアルゴリズムを開発したりするなど、さまざまな工夫を重ねました。これらの器具やソフトウェアは全て自社内で開発しました。
大熊 実際には製造現場も苦労していて製造を軌道に乗せるにはかなり「人」に頼った面があります。ある工程では「匠」というわけではないのでしょうが、慣れている人でなければできないという部分もありました。ある意味で製造におけるセンスが問われていたというか、人が変わるとできなくなってしまうという領域もあり、そういう中で試行錯誤しながら作り上げてカタチにしたということになります。
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