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古くて新しい開発手法「バイオミメティクス」――生物に未来のモノづくりを学ぶナノテクノロジー(3/3 ページ)

生物の微細構造や機能をエンジニアリングに応用する「バイオミメティクス」。1930年ごろから利用されている開発手法であり、1980年代以降に研究が停滞した時期もあったが、ナノテクノロジーの発展によって再度注目を集めている。

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バイオミメティクスが実現するサステナビリティ

 下村氏は、バイオミメティクスがもたらすメリットとして「さまざまなモノの製造プロセスに産業革命以降のパラダイムシフトを起す可能性がある」と語る。同氏はその理由について、人間と生物の“技術体系”の違いを基に説明した。

 現代において人間が何かを製造する場合、その多くは石油などの限りある資源を利用して生み出したエネルギーを利用する。しかし生物の場合は、環境調和性の高い元素(ユビキタス元素)などと太陽光などのサステナブル(持続可能)なエネルギーを利用することで進化を遂げてきた。


下村氏が示した「バイオミメティクス」の意義。新たな製造プロセスを実現するためのヒントになるという(クリックで拡大)

 例えば、アワビの殻はセラミックスでできている。人間が同じセラミックスを製造する場合、さまざまな材料を高温焼成するのが一般的だ。一方アワビは、海水の温度でも軽量かつ強靭なセラミックスの殻を、高温焼成することなく省エネルギーに生成することができる。もちろん、アワビの殻と人間が製造するセラミックスの“製造時間”には大きな差がある。しかし、こうした生物の特性や性質を分析することで、持続可能な社会のサステナビリティに貢献する、新たなモノづくりの製造プロセスのヒントを見つけられるのではないかというのが下村氏の主張だ。

実際にバイオミメティクスをどう活用すればいいのか

 こうしたさまざまな可能性を持つバイオミメティクスだが、その実現のためには生物学、工学、博物学など異なる分野の協力が必須となる。下村氏は「工学系と生物学系の研究者がすぐに手を組める環境というのは現実的には想定しにくい。また、生物の学名や機能、構造に関する専門用語を共有するのは難しい面もある。こうした状況で、いかに工学に生物学の知識を取り入れるのかが課題となっている」と指摘する。


下村氏が研究開発を進めている「バイオミメティクス・データベース」(クリックで拡大)

 そこで下村氏などが研究開発を進めているのが、走査型電子顕微鏡で撮影したさまざまな生物の画像を集積した「バイオミメティクス・データベース」の構築だ。このデータベースには、テキストを使わずに各画像の類似性に基づいた検索ができるという特徴がある。つまり、ある生物に類似する機能を持った他の画像を探したい場合、正しい生物名や専門用語を知らなくても検索が行える。


生物に関する知識がなくとも、エンジニアが活用できる「発想支援型」のデータベースになるという(クリックで拡大)

 下村氏は「こうした画像データベースを構築することで、工学系のエンジニアでも画像を見て直感的に生物学のアイデアを取り入れること可能になる。また、データベースの中に生物の画像だけでなく、既に実用化されている繊維などの画像も配置している。これにより生物と実際の繊維の構造の関連性も見ることができる。現在実用化に向けた研究開発を進めている」と説明した。

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