インダストリー4.0の実現に必要な技術的要素は何か:インダストリー4.0概論(中編)(2/5 ページ)
「新価値創造展2014」ではインダストリー4.0をテーマとしたビジョンセミナーを開催。各界3人の有識者が登壇し、「インダストリー4.0とは何か」や「どういう価値をもたらし、どういう課題があるのか」を解説した。中編では、ドイツのフラウンホーファーIPA(生産技術・オートメーション研究所)のヨアヒム・ザイデルマン(Joachim Seidelmann)氏の講演「科学技術の観点から見たインダストリー4.0」の内容をお伝えする。
インダストリー4.0の5つの研究開発対象エリア
インダストリー4.0で描く世界を実現するには、さまざまな分野での技術革新が求められるが、ドイツでは中長期の研究開発分野として以下の5つの主要領域を定めている。
- バリューチェーンの水平統合
- バリューチェーン全体を通したデジタルエンジニアリングの統合
- 生産システムを結ぶ垂直統合
- 新たな働き方に対する社会基盤
- サイバーフィジカルシステム関連技術
前編でも説明した通り、水平方向の統合とは、製品を作る上で関わる複数の企業や工場などの情報システムによる連携のことを指す。一方で垂直方向の統合とは工場内で関連するERP(Enterprise Resource Planning)などの基幹システムや生産管理システム、製品ライフサイクル管理(PLM)システム、製造実行システム(MES)、ロボットや製造機械などの制御システムなどを統合させる動きのことを示している。
これらの研究開発を進めることによって得られる技術について「ドイツは両面展開の戦略を取る」とザイデルマン氏は説明する。「ドイツはこれらで生まれたテクノロジーのサプライヤーとして世界展開を進めていくとともに、これらのインダストリー4.0技術の最も早いデモンストレーター(実践者)として、これらの技術を活用し製造現場の革新を図る方針だ」とザイデルマン氏は説明する。
科学的見地から見た17のテーゼ
インダストリー4.0はインダストリー4.0プラットフォームにより運営されていることを先述したが、以下のような組織体制となっている。この中で科学的見地からさまざまな提言を行っているのが「Scientific Advisory Committee(SAC)」だ。
SACは、インダストリー4.0に対して、大きく分けて「人間としての側面」「技術的な側面」「組織的な側面」の3つの面に分けられる17のテーゼ(命題)を示している。
人間としての側面
- “人間中心”を求める労働争議が多く発生する
- 「Socio-Technical System(生産、情報通信、交通、物流、商取引、医療、電力など、社会に利益、便益を与える技術システム)」として、業務に求められるタスクや評価方法、必要な知識や行動方式などの多様化が生まれる
- ITに関連する要素が増える結果として、新たに学ぶべきことが増え、また、学習を支援するツールなど働き方に応じた教育や学習の機会が増える
- ユーザーが自動的に使える学習ツールや学習機能が生まれる
技術としての側面
- 学習プロセスなどを通じ、インダストリー4.0システムの理解を進め、直感的に利用できるようになる
- 多くの立場の人々がインダストリー4.0システムを、設計し、それを形づくり、運用する、共通のアクセス可能なソリューションパターンができる
- 製品やビジネスプロセスが複雑な関係性を築く一方で、高速な分析によりより早く解決策を見つけられるようになる
- 計画し、実装し、監視し、自律的に最適化を図ることで効率化を実現する
- ライフサイクルの全フェーズにおいて、スマートプロダクトは、動的に情報を保持・発信し、識別できる
- 生産機械の中のシステム部品も情報を発信し識別可能になる。仮想的な生産計画や生産プロセス準備などが可能になる
- 新しいシステム部品が古いモノの機能を持つだけでなくシームレスな置き換えが可能になる
- それぞれが他の部品と常に情報通信ができることで、サービスモデルとしての機能提供が可能となる
- インダストリー4.0システムにおいてセキュリティにおける新たな文化が生まれる
組織としての側面
- ネットワークに接続された製品や製造、サービスによって新たな価値が創出されるとともに労働者の分割が進む
- 新たな経済的、法的な体制構築に向け、協力と競争の原理が働く
- システム構築やビジネスモデルは現在の法制度の上に成り立っているが、新たな契約モデルなど新たな法体制が生まれる
- 地域に根差した仲介業者などが生まれ、新興国市場などで新たなチャンスをつかむ可能性がある
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.