オートデスクの3Dプリンタは“永遠の未完品”を目指す:Autodesk University 2014(2/3 ページ)
オートデスクは、3Dプリンタの受注と3Dプリンタ向けのオープンソースソフトウェア基盤の事業展開について発表したが、その背景にはどういう狙いがあるのだろうか。同分野を担当するビジネスディベロップメント+オペレーションズ シニアディレクターのオーブリー・カテル氏に話を聞いた。
Sparkは3DプリンタのAndroidに?
―― Sparkについてより詳しく教えてください。実際にSparkはどういう作業を行うのですか。
カテル氏 3Dプリンタにおいてソフトウェアが行うべきことは多い。現状では、3Dプリンタで利用できるデータ形式を3Dプリンティングしても、その3Dプリンタで正しく造形できる形状なのかどうかは特に判定されずにそのままプリンティング作業が行われ、失敗造形となってしまう。また、空洞がある場合はサポート材の設定なども必要になるが、それが正しく行われず、失敗するケースも多い。
また、3Dプリンティングを行うには、造形するモデルをプリントするレイヤーに合わせた形にスライス(スライシング)し、プリンタヘッドの通り道であるツールパスの設定などをソフトウェア上で行わなければならない。この作業を正しく行えるかどうかも3Dプリンタの造形の成否に関係する。
3Dデジタルデータと実際の造形物の間を正しく埋める存在となることだ。すなわち、印刷したいデータを探し、それが対象の3Dプリンタ、材料、造形方式で正しく造形できるのかを査定する。これがそのまま造形可能であれば、そのままプリンティング作業に入り、難しければ、データの補修やサポート材の追加を自動で行う。さらに正しい形を作り出せるように、ツールパスなどを設定するという作業となる。この「3Dモデルを造形したい」と思った時に、間の設定や補修などの作業を吸収し、自動で最適な形で造形できるようにするという作業を行うということが大きな役割だと考えている。
あえて一言で言ってしまえば「3DプリンタのOS」というのが目指すところだ。または「スマートフォンに対するAndroid」のような存在になると言ってもいいだろう。スマートフォンでは、いちいち機器の設定や条件などを気にすることなく求める作業を行うことができる。それには1つのプラットフォームがあるからできることだ。それを3Dプリンタでも実現する。
ヘテロジニアス環境の不具合を吸収する
―― Sparkを利用することでそれぞれのユーザーにはどういうメリットがあると考えられますか。
カテル氏 このSparkによるプラットフォームを利用することで、ハードウェアベンダーは基本的なプラットフォームの開発にリソースを割く必要がなくなり、自社の顧客ニーズに応じた先進的な製品を開発できるようになる。また、ツールベンダーやソフトウェアベンダーにとっても同様だ。共通部分の開発負担を減らすことでより新たな開発に力を注ぐことができるようになる。また3Dプリンタを利用しているエンドユーザーにとってもメリットをもたらすことができる。
例えば、既に3Dプリンタの活用を進めている大手製造業の環境を見てみよう。3Dプリンタを活用する環境を保持する企業の現場では、3Dプリンタに関連する環境が1社で統一されているわけではなく、3Dプリンタに関する環境が乱立しているケースがほとんどだ。3Dプリンティングにおけるヘテロジニアス(異種のものが並立する)環境といえる。しかし、Sparkを導入することで、これらの異種環境を吸収しシングルオペレーションを実現することができる。また、3Dプリンタの導入がそれほど進んでいない中小製造業にとっては、機器やソフトウェアなど必要とする環境に悩まずに導入できるようになる。さまざまな面でハードルを下げられることが利点だといえる。
―― 「3DプリンタのOS」というとデジタルコンテンツに関することだけではなく、ハードウェアの制御なども行えるということですか。
カテル氏 現実的には3Dプリンタにおける機械部分の動作制御はそれぞれの機器メーカーによるファームウェアによって行われており、その開発までをSparkで行うわけではない。ただ、このファームウェアとSparkを統合し「デジタルコンテンツを正しく造形するのに最適な動作をさせる」ということには取り組むつもりだ。この統合部分の開発は視野には入っている。
―― あらゆる材料やあらゆる造形方式を対象としているとしていますが、現状ではどの方式を対象としているのですか。
カテル氏 現在はSLA(光造形法)方式とFDM(熱溶解積層法)方式をサポートしている。リリースした3DプリンタEmberでは、SLA方式を採用している。また次のステップとして、SLS(粉末焼結積層造形法)方式への対応を計画し、開発を進めている。SLS方式に対応できれば、樹脂だけでなく金属用にも対応できるようになり、利用範囲を広げることができる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.