被災地の思いを乗せて飛ばなきゃ――鳥人間王者・Windnautsの秘密(後編):鳥人間コンテスト インタビュー(2/2 ページ)
琵琶湖の夏の風物詩として知られる鳥人間コンテストに、東北大震災で被災しながらも出場して、優勝を成し遂げた東北大学の「Windnauts」。人力飛行機の設計内容を説明した前編に続き、後編では震災当日から鳥人間コンテストに出場するまでのいきさつや、優勝、そして連覇を果たしたWindnautsの活躍について紹介しよう。
Windnautsにあこがれて
鳥人間コンテストのサークルに入ったのは、大学以前からWindnautsへのあこがれがあったからだと白畑さんと小田さんは言う。また白畑さんはNHKのドキュメンタリー番組「プロジェクトX」が大好きだった。この番組に登場するエンジニアにあこがれ、またプロジェクトを運営してみたいと思ったそうだ。そこで当時ディスタンス部門で有名だった東北大学を受験した。小田さんも中学生のころから鳥人間コンテストを見ていた。ちょうど36kmの飛行を成し遂げるなど東北大が強くなってきたころでもあり、Windnautsに入りたくて東北大を選んだという。メンバーの学部は理工系に限らずさまざまだそうだ。
鳥人間コンテストについて「苦しさ9割、楽しさ1割。だけどその1割を味わうためにやっているようなものです」と白畑さんは笑う。東北大の人力飛行機を展示しているスリーエム仙台市科学館の主任指導主事を務める中澤堅一郎氏も、そばで見ていいて本当に全精力を傾けていると感じるそうだ。「すべて手づくりで、皆が集まって1つのことを成し遂げるという経験は、社会人になってからはまずできません。とくに大学で勉強しているうちに同時に手を動かしてモノを作る経験は非常に大きな意味があると思います」(白畑さん)。
小田さんは「辛いことの方が多いですが、自分が設計した飛行機が飛んだときはうれしい。しかもそれが大会に出て優勝し、テレビで放送されるという経験はなかなかできない」とその魅力を語る。「大会がずっと続いて、将来モノづくりに興味を持ってくれる人が増えればと強く思う」いうのが白畑さんらの共通の思いだ。
学生フォーミュラとの違いは?
実は白畑さんは自動車が好きで、鳥人間コンテストが終わった後は同年代の桂朋生さんらと一緒に学生フォーミュラのチームを立ち上げた。その中でWindnautsが20年間蓄積してきたものがどれだけ大きいか身にしみて分かったそうだ。展示企画のためずっと付き合ってきた中澤氏も「モノづくりは一度途絶えると一から作ろうというのはまず不可能だといいます。サークルなので代がどんどん変わっていくが、機体づくりや運営のノウハウが脈々と息づいていることを随所に感じます」と話す。
また学生フォーミュラは安全面の考え方に対して大きな違いがあるという。学生フォーミュラではしっかりしたレギュレーションがあり、まずそれを満たした自動車を作ることが難しい。さらに車検があり、これをクリアしなければ大会にすら出られない。そして万が一自動車が炎上した場合に備えてドライバーが5秒以内に脱出できるかも試験する。電気自動車であれば雨が降っても大丈夫かといった項目がある。自動車技術会が主催であることもあり、育成を主眼に置いている。とくに自動車のエンジニアを目指すにはよい経験ができるだろうという。
鳥人間コンテストでは今まで起きた事故は防げた事故だったという。そういった試験に関するルールはない。Windnautsの試験も全て自身で独自に規定したものだ。「完全に事故をゼロにすることは難しいが、他チームで0に近づける努力はまだまだ足りていないのではないか」(白畑さん)と厳しい。特に機体の完成が遅れると試験フライトの時間も取れなくなり、飛行テストのないまま飛んでいる機体があるのも事実だ。ルール上試験を義務化しない限り事故は減らないのではないかという。
中澤氏は科学館で子どもと接する機会が多い。ここでは総合科学館には珍しく小型機の機体が置いてあり、乗って操縦かんを動かすこともできる。この展示は子どもはみな大好きだという。飛行機には人が飛ぶという単純で魅力的なものがあるのだろうという。「子どもたちにはモノづくりの魅力だけでなく、素晴らしい活躍をしている方々が身近なところにいる、自分も目指そうと思えば目指せるということを示していきたいですね」(中澤氏)。
白畑さんたちは当時震災があった時に大会を見てくれた人たちがこの機体を見て、また一歩進むきっかけになればという。「生活できるようにはなりましたが、自宅が流されたりと被災された人はたくさんいます。でもそこで立ち止まらずに、新たな生活を始めている。辛いこともありますが、そんな背中を押せたらと思います」(白畑さん)。
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