「魅力のないゲーム」と「魅力のあるバグ」:山浦恒央の“くみこみ”な話(68)(2/2 ページ)
ソフトウェア開発において「バグ」は悪者ですが、ゲームにおいては必ずしも言い切れず「魅力のあるバグ」が発生することもあります。全てのバグは悪か? そんなお話です。
3.「魅力あるバグ」の条件
ゲーム系でのバグが、全て、「魅力のあるバグ」になるとは限りません。逆に、そうでないバグが大多数を占めています。「魅力のあるバグ」の条件とはなんでしょうか? 以下に一例を挙げます。
(1)誰がプレイしても発生する
重要なことは、同じゲームのプレーヤー間で、「バグ情報を共有」できることです。有名なゲームには、多くのプレイ仲間がいたり、コミニティがあります。そのコミニティの絶好の話題が「こんなバグがあってね……」というバグの話です。みんなに共通するバグの話題は、コミニティを活性化させ、仲間との一体感が深まり、ゲームの人気が長く続きます。
(2)発生頻度が絶妙
発生条件が分かっていても、1年に1回しか起きないようなレアなバグでは、忘れられてしまう可能性があります。5分おきに発生すると、ゲームの品質に不安を覚えます。適度な発生頻度が求められます。
(3)プレーヤーが(少し)得をする
ゲームのバグにより、自分が一方的に損をすると、プレーヤーは激怒します。レーシングゲームで後続車に一瞬だけ追い抜かれて、抜き返したのに、コツコツと積み上げたポイントが一挙に半減すると、大きな挫折を感じ、「オレの青春を返せ」と叫びたくなるでしょう。
一方、得をし過ぎるのも、ゲームをつまらなくします。テレビのクイズ番組でよくあることですが、「それでは、最終問題です。これに正解すると、最下位のチームも優勝できるチャンスがあります」と言われると、「じゃあ、これまでの問題は何だったのか?」と世の無常を感じることでしょう。やはり、少しだけ得をするバグが歓迎されます。
(4)プレイ全体の進行に悪影響がない。
自分が得をしても、その度にゲームが10秒止まると、プレーヤーはイライラします。大きな得をしても、画面がフリーズしたり、再起動しなければならないようなら、このバグは「悪」です。
4.おわりに
一般の組み込み系ソフトウェアと、ゲーム系のプログラムでは、バグに対する考え方が大きく異なることをお分かりいただけたと思います。ゲームでのバグは、必ずしも「バグ」ではなく、「ゲームの魅力」になり得ます。ただし、最近のゲーム開発では、「バグはバグ」と考えて、修正する傾向にあるそうです。
一般の組み込み系ソフトウェアのバグでも、ゲーム系のように「魅力のあるバグ」があるかもしれません。「バグは悪」と条件反射的に判断せず、「このバグは、魅力に繋がらないか?」と10秒だけ考える癖をつけると、意外な機能を実装するきっかけになると思います。
東海大学 大学院 組込み技術研究科 准教授(工学博士)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 山浦恒央の“くみこみ”な話(67):楽しいリスク分析――熊とワルツを踊るように 【その3】ソフトウェア開発版「災害発生時の対策」
ソフトウェア開発プロジェクトで、リスク管理は大変重要ですが、きちんと実施している組織はほとんどありません。今回は「リスクの発見」を復習し、リスク管理の手順を解説します。 - 山浦恒央の“くみこみ”な話(66):楽しいリスク分析――熊とワルツを踊るように【その2】「高校野球の頭脳プレー」と「ソフトウェア開発のリスク発見」
ソフトウェア開発プロジェクトで、リスク管理は大変重要ですが、きちんと実施している組織はほとんどありません。今回は、甲子園での高校野球の好プレーを例にしながら、ソフトウェア開発でのリスク管理について考えます。 - 山浦恒央の“くみこみ”な話(65):楽しいリスク分析――熊とワルツを踊るように 【その1】リスクの三銃士
「リスク分析」という言葉をよく聞くようになりましたが、実際に行うプロジェクトは少ないのではと思います。リスクの洗い出しと対処策の検討を、身近な例と対比しながら考えます。 - 連載記事「山浦恒央の“くみこみ”な話」