楽しいリスク分析――熊とワルツを踊るように【その2】「高校野球の頭脳プレー」と「ソフトウェア開発のリスク発見」:山浦恒央の“くみこみ”な話(66)(1/2 ページ)
ソフトウェア開発プロジェクトで、リスク管理は大変重要ですが、きちんと実施している組織はほとんどありません。今回は、甲子園での高校野球の好プレーを例にしながら、ソフトウェア開発でのリスク管理について考えます。
ソフトウェア開発プロジェクトで、リスク管理は大変重要ですが、きちんと実施している組織はほとんどありません。リスク管理の最大の利点は、「実際に問題が起きた場合に、冷静に対処できる」ことです。事前にリスクを洗い出し、対応策を決めておくことが非常に重要です。今回は、甲子園での高校野球の好プレーを例にしながら、ソフトウェア開発でのリスク管理について考えます。
1.高校野球球史に残るファインプレー
今、35度を越える猛暑の中、甲子園球場では夏の全国高校野球大会の真っ最中。毎年、筋書きのない場面でのファインプレーを見て、選手が日頃、どれだけ一生懸命、練習をしているかを体感します。2年前の2012年8月13日、済々黌vs鳴門の試合で、非常に珍しいプレーがありました。新聞やテレビで何度も報道されたため、覚えている人も多いと思います。
7回裏、2対1でリードしている熊本県代表 済々黌の攻撃は、1アウトでランナー1塁、3塁。追加点のチャンスですが、バッターの打った鋭いライナーを二塁手が直接取って2アウト。さらに、1塁ランナーが2塁手前まで暴走しているのを見て、2塁手は1塁手にボールを送球しました。1塁ランナーは帰塁できずアウトとなり、ダブルプレーが成立。草野球の経験者には分かると思いますが、素人レベルの試合では、ダブルプレーが成立すると、敵味方の両方から拍手をもらえます。甲子園に出場する高度なレベルのチームには当たり前のプレーですが、それでも観客から大きな拍手が起きました。
スコアは2対1のままのはずですが、鳴門高校の選手がダグアウトに引き上げた瞬間、スコアボードに1点が記され3対1になったのです。観客がざわめきます。ほとんどの人が、「スコアボードの操作ミス」だと思ったはずです。しかし、主審がマイクロフォンで1点追加の理由を説明し、球場中が驚きました。一体何が起きたのでしょうか?
謎の正体は、3塁ランナーの行動にあります。打者がセカンドライナーを打った瞬間、塁を離れていた3塁走者は、3塁に帰ることなく(タッチアップせずに)ホームベースを踏んだのです。時系列で言うと、1塁走者が帰塁できずにアウトになる前に、3塁ランナーが本塁を踏んだのです。
鳴門は、1塁走者を刺したことで第3アウトを取りましたが、まだ済々黌の7回裏の攻撃は終わっていません(UNIXでの「ゾンビ・プロセス」のような感じでしょうか?)。もし、鳴門があらためてボールを3塁手に送球し、3塁ベースにグローブを触れて3塁ランナーをアウト(第4アウト)にし、「この4番目のアウトを3番目のアウトと交換してください」と審判にアピールすれば、1点は入らなかったのです(あるいは、第3アウト目を3塁で取っても、追加点は防げました)。
守備側の選手がフェアグラウンドから外へ出たため、鳴門側のアピール権が消滅し、1点が入ってしまいました。非常に複雑なプレーですが、ルールブックにちゃんと記載されています。
こんな規則があることにビックリしましたが、もっと驚いたのは、こんな特殊なプレーを済々黌の選手が意識的に実行したことです。勝利者インタビューで分かったことですが、野球漫画、『ドカベン』で、よく似たプレーがあったそうで、済々黌の選手やコーチはそれを読んで記憶しており、「同じ場面があったら、同じことをやってやろうと思っていました」とチャンスを狙っていたとのことです。済々黌の選手は、「相手に気付かれませんように」と平静を装いながら、実はドキドキしてベンチへ戻ったことでしょう。
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