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サムスンを縛ったFRAND宣言とスマートフォンOSの覇権争い知財専門家が見る「アップルVSサムスン特許訴訟」(2)(1/3 ページ)

知財専門家がアップルとサムスン電子のスマートフォンに関する知財訴訟の内容を振り返り「争う根幹に何があったのか」を探る本連載。第2回では、訴訟の重要なポイントとなったサムスン電子のFRAND宣言と、スマートフォン基本ソフト(OS)の動向について解説します。

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 米国アップル(Apple)と、韓国サムスン電子(Samsung、以下サムスン)のスマートフォン端末およびタブレット端末に関する知財訴訟の背景に何があったのか、を解説する本連載。前回の「アップルVSサムスン特許訴訟の経緯と争点を振り返る」では、訴訟の経緯と争点についてあらためておさらいしました。

 第2回となる今回は、この訴訟において重要なポイントとなったサムスンのFRAND宣言と、スマートフォンOSの推移について解説します。



FRAND宣言のリスク

 サムスンは1998年、欧州域内の電気通信関連の標準化を進める「欧州電気通信標準化機構」(ETSI)に対し、欧州の携帯電話技術の標準化に不可欠な必須特許を所有していると宣言していました。ETSIの特許取扱についての内規である「IPRポリシー」によれば、標準作成メンバーは所有する当該標準の必須知的財産権(IPR)をETSIに善意で申告しなければならないとあります。

 サムスンによる必須特許の宣言は、このIPRポリシーに基づくものですが、その宣言を受けてETSIの事務局は、局長名でサムスンに対し第三者からの要請があれば必須特許を「公平、合理的、無差別の条件」(FRAND)でライセンス許諾するようにと事前に通知していました。

 ETSIのIPRポリシーに明記されているFRANDとは、「Fair(公正)、Reasonable(合理的) and Non-Discriminatory(無差別な)」の略字ですが、この一文により、必須特許を持っているETSIのメンバー企業は、保有する必須特許について、FRAND条件でライセンスすることが求められています。

 一方、特許所有者は、特許という独占権を保持しており、ライセンス条件を自主的に決めることができるのも事実です。このため、高額な特許ライセンス料を要求したときに「FRAND条件の約束と異なる」という問題が生じてきます。

 アップルとサムスンの知財訴訟では、ライセンス交渉の中でサムスンが一台当たり2.4%のロイヤルティーの支払いを求めたことが明らかになっています。これに対しアップルは「業界の相場感からすればそれは極めて高いロイヤルティーであり、結果として競業者を市場から排除することになる」と主張して、各国の独禁当局に独占禁止法違反の申し立てを行いました。欧州委員会は2012年1月、サムスンの行為が独禁法違反に当たるかどうかの調査を行うと発表しました。また、韓国の公正取引委員会も同年9月、アップルの告発を受け、サムスンに独占禁止法の違反があったかどうか調査すると発表しました。

広がるFRAND条件と独占権の衝突

 この問題は何もアップルとサムスンの間だけで起こっている問題ではありません。WCDMAの必須特許の権利行使をめぐる競争法違反の紛争は、米国マイクロソフト(Microsoft)と米国モトローラ(Motorola、現在はモトローラ・モビリティとモトローラ・ソリューションズに分割)の間や、その他のスマホ企業の間でも起きています。

 マイクロソフトもアップル同様、3G通信方式に関する必須特許について高いロイヤルティーを要求することはFRAND条件に違反するとしてモトローラを独禁法違反で訴えています。

 米国での独禁法違反の裁判は、「特許乱用」の有無が争点となります。標準必須特許の乱用に対して制裁を認めた判決例は少なく、標準必須特許に対する侵害差止めを認めるかどうかの判断は前例がなく、裁判所がどのように踏み込んだ判決を下すかも興味深い点となっていました。特に、米国でまだ最終的な裁判所の判断が出されていません。それが、両社が各国で訴訟を取り下げる中でも、米国を除外した理由の1つと考えられます。司法判断が明らかにならなければ、標準必須特許の戦略が立てられないからです。

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