ドイツ製造業の危機感が生んだインダストリー4.0、日本はどうすべきか?:FAインタビュー(2/3 ページ)
ドイツ貿易・投資振興機関は今回で10回目となる「日独産業フォーラム 2014」を開催。今回はテーマを「インダストリー4.0」とし、同分野の研究の第一人者と見られインダストリー4.0プロジェクトにおける技術イニシアチブ「スマートファクトリーKL」の会長を務めるデトレフ・チュールケ氏が基調講演に登壇した。同氏の基調講演の内容とインタビューをお伝えする。
ドイツに「インダストリー4.0」がなぜ必要だったか
これらの動きの根本にあるのは、ドイツの製造業の危機感だ。ドイツは国内産業の中で製造業の比率が高いが、最終製品のライフサイクルのスピードは速まり、現在の生産自動化システムのエンジニアリングが間に合わないという問題を抱えていた。オートメーション化(自動化)を図るとそのセッティングが終わった頃には、次の新しい製品に変わっているという状況では機械による自動生産は難しい。柔軟に生産ラインや生産品目を変更できる人手によるセル生産方式の方が向いている。しかし人件費が高い先進国では、人手を掛ける生産方式はコスト面で不利になる。そのため、中国やASEANなどに生産が流れるという状況だった。
ただ、中国が製造大国として台頭する中で、製造立国として競争力を維持するためには、この問題をクリアする必要がある。人件費の違いは手の打ちようがないため自動化は必須だ。そうなると「簡単に短時間で設定可能な自動化」が必要となる。「IoTやサイバーフィジカルシステム、ハイスピードインターネット、スマート関連技術、ワイヤレス関連技術など要素技術は出そろってきている。これらを活用した工場を実現することで、より柔軟で迅速な自動生産が行えるはずだ。インダストリー4.0は人海戦術での生産に対抗する手段ともなり得る」と話している。
インダストリー4.0で重要な「標準化」
チュールケ氏は、「インダストリー4.0が目指す姿は、ある意味でレゴブロックのようなものだ」と語る。レゴブロックは1つの標準化された形で、自由に組み合わせて好きな形を作ることができる。「生産ラインもレゴブロックと同様に“プラグ&プレイ”のような仕組みで使えれば、自由に組み合わせることで求めるものを求めるように作ることができるようになる。そうなると、抜本的な効率化を実現できる」(チュールケ氏)という。
そのため重要になってくるのが「標準化」だ。チュールケ氏は「インダストリー4.0のさまざまなワーキンググループにより、標準化への話し合いは進んでいる。家庭用のプリンタを考えると分かるように、“自由な組み換え”を想定した場合、オープンな規格による標準化は必須となる」と語る。
一方で標準化によって起こる問題点としてサイバーセキュリティの問題を指摘する。「標準化を進め、インターネット技術を幅広い領域で活用することは、良い点だけをもたらすわけではない。今まで閉鎖されていたところを開くことになればセキュリティの問題が発生する。リスクを考えれば、工場や制御システムのセキュリティ対策は必須となるだろう」とチュールケ氏は語っている(関連記事:工場の安定稼働が人質に! なぜ今制御システムセキュリティを考えるべきなのか)。
2015年にインダストリー4.0プロトタイプ製品が登場
それではインダストリー4.0で描くような世界が実現するのはいつごろになるのだろうか。チュールケ氏は、それにはまだまだ時間がかかると話している。
「インダストリー4.0はコンセプトやビジョンとして描く姿は明確だが、それが実際に形になるには多くの課題をクリアしていく必要性がある。実際に工場に普及していくのは10年後くらいになるだろう。ただ、最初のプロトタイプは2015年に登場してくるだろう。最初の製品が登場するのは5年後くらいだと見ている」とチュールケ氏は述べている。
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