STLの扱いが、なんか“軽い”んだよね:3次元って、面白っ! 〜操さんの3次元CAD考〜(39)(2/2 ページ)
外部の3D出力サービスに、製品設計のデータをそんなにガンガンアップして、本当に大丈夫なの? 僕は正直、ちょっと怖いです。
ふとCADベンダーにいた頃を思い出す
考えてみれば、ずいぶん昔に似たようなことを考えた覚えがあります。大手ベンダー製の高価な3次元CADしかなかった1990年代、私がその現場でCADやPDMの導入の仕事をしていた時です。
当時の製造業では“図面が全ての中心”の時代でした。そして「これからは3次元データをマスターにしよう」とかいう掛け声で、ベンダー側も売り込みを図っていました。客先を訪問すると、「さすが」と感心するほどに図面の管理は厳しかったものです(今でも、そうでしょうけど)。一方、3次元データは、図面と比べると扱いが軽かったと記憶しています。
私がCADベンダーの担当としてPLM導入を支援していた立場ということもあるでしょうが、実際のプロダクトの図面は見せてくれませんが、3次元データはずいぶんと気軽に見せてくれたものです。例えばこんな感じです。
「すいません、このモデリングで、こんなことが起きてしまってどうしてですかね〜?」
「この解析どうしてもうまくいかないんですが……」
といった問い合わせに対して、
「すいません、データ送ってもらってもいいですか?」
「はいはい、すぐ送ります。急いでるんで早い対応お願いね」
……みたいな感じで、生のCADデータがメールでホイホイと飛び交っていました。あるいは現地なら、CADデータの入ったUSBを渡されて「これね」と。
少し誇張はあるかもしれませんが、大体こんな雰囲気でした。
いくつかの部品の3次元データを私が見たぐらいでは、大した問題にはつながらないと考えていたのかもしれませんし、もちろん私も契約にかかわらず自らの信頼に関わるようなことはいたしません。
当時は、3次元CADのデータが設計の中で使われ始めた頃です。まだ業務の流れの中でのポジショニングや価値観、「どのように扱われるのか」といったことがきちんと定まっていなかったからなのでしょう。
3次元CADが広く普及した現在は、そのようなことはさすがにないでしょう。例えば、外部の企業や人とは3次元ビュワーを経由してのやりとりはするけれども、生データにはアクセスさせないとか、その価値に応じた対応がされていると思います。
つまり現在のSTLファイルは、1990年代当時の3次元CADデータの“扱いの軽さ”を思い出させるのです。
今日のSTLファイルは、そのファイルが持つ価値ほどに十分なセキュリティを与えられていないように思いますし、それを使う人たちの意識も同様ではないでしょうか。例えば、企業の中で設計などに携わっていたとしたら、図面とSTLファイル、それぞれの価値観の重みはどう考えますか?
もちろん、それぞれの役割も持っている情報も異なるわけですから、単純比較はできないわけですが、STLはその価値に対しての地位が与えられていないのでは……と私は思うのです。
ただもう少し時間がたてば、現在の3次元CADデータのように、STLのセキュリティのことも皆もっと気にし出すのでは……、と思っています。実は、3D-GANの中で、今回お話ししたような議論をしている最中です。具体的なソリューションも近々紹介できればと思っています。
3次元データのセキュリティに関していえば、現在は例の“3Dプリンタ銃事件”(関連記事「殺傷能力がある拳銃を作れる3Dプリンタは法的に規制すべきか?」)のような事態の対策などが考えられています。もちろんそれも大事かとは思いますが、それ以上に、「自分が作ったデータである」という証明や、知的資産として扱うための対応や仕組みが求められてくると思います。
それが今後、3次元データが本格的に流通していくために、データの作成者がある程度安心して流通ルートに乗せるために、必要なのではと思います。読者の皆さんはどうお考えでしょうか?
3次元モデラーの人口が増えれば、需要は確実にあるはず?
最近、デアゴスティーニ・ジャパンが発行する「週刊 マイ3Dプリンタ」の全国展開が決定しました。これによって、パーソナル3Dプリンタの認知はさらに広がっていくでしょう。しかし果たして、3次元モデラーの人口は、それに伴ってどのくらい増えていくのか?
SNSの投稿を眺めていると、パートワークの題材としての3Dプリンタに対する論評がほとんどであり、55号全てに付いてくるモデリングガイドについての論評がほぼ皆無なのです……。
しかし、もしこの件が少しでも3Dモデリング人口のかさ上げにつながるのだとしたら、やはり安心できるSTLファイルの流通ソリューションが求められる日が確実にくるはずだと踏んでいるんですよね……。
……というところで今月はこちらで失礼いたします。ではでは。
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