ビンテージ家電を収集し出したら、見えた? 家電の未来:zenmono通信(2/3 ページ)
モノづくり特化型クラウドファンディングサイト「zenmono」から、モノづくりのヒントが満載のトピックスを紹介する「zenmono通信」。今回は、デザインアンダーグランド主宰 家電蒐集家 松崎順一さんにお話を伺った。
enmono宇都宮氏 iPhoneがあれば一通りそろう今、ビンテージ家電に引かれる理由を教えてください。
松崎氏 デザインやディテール、フィニッシュの考え方など、圧倒的なこだわりからメーカーの当時のモノづくりの理念というのも見えてくるのです。思いが込められたモノは、時代を超えて愛されるのではないでしょうか。ここに集まったモノは、今でも素直に「カッコいい」と思えるモノばかりなんです。
enmono宇都宮氏 家電は機能も含めた製品ですから、スタイリングは時代を超えて生き残っても、テクノロジーの部分で今は使えなかったりと問題が出てきますが。
松崎氏 機能は当時のままなので、そこは使えなかったりしますね。でも、高性能イコール人に心地よいかというと、そうでもなくて。ラジオやラジカセ、オーディオなんかは、70年代、80年代の製品の方が音がいいです。スピーカーの質感で出しているから、癖がない。デザインアンダーグランドでは特に、ラジカセの魅力をさまざまなアプローチで提案しています。
enmono宇都宮氏 本物を知らずに今の製品で聴いていると、それが標準と思うでしょう。本物を知る機会は、あった方がいいですよね。
松崎氏 本物を知るために行動する、そのプロセス自体も楽しいものです。昔は家電もレコードも食も、トライ&エラーをしてたんですよ。今は買うまでの楽しみの部分が端折られている。
enmono宇都宮氏 さまざまなサイトが良かれと思って、トライ&エラーをしなくても済むように情報提供しますから。
松崎氏 ある意味いいとは思うんですけれども、失敗することによって学ぶこともあります。世の中便利になりすぎて、人間にとって大事な部分を失ってきているような感じがします。
enmono宇都宮氏 モノづくりは、大体失敗しましたよね。解体して、周りに残骸が転がったままで。
松崎氏 家電を買うと必ず、ばらしてましたね。私はインハウスデザイナー時代、若いデザイナーにモノを内側からも見ていく大切さを教えていましたし、現在もワークショップでレクチャーしています。マグロの解体ショーのように板の上にテレビなどを置いて解体していくのです。分解ではなく解剖学、オペなので、白衣を着て。
enmono宇都宮氏 ワークショップは、どういった所でやられているのですか?
松崎氏 伊勢丹さんなどです。伊勢丹さんはアプローチの仕方が独特で、柔軟です。私は家電にしても何にしても、売り方も大事だと思っています。ファッション業界の方では、「今、何がトレンドとして面白いのか?」という仕掛けの部分を、複数のアパレルメーカーと打ち合わせしています。家電業界でも、新しい売り方を提案したいですね。
enmono宇都宮氏 ビジネスは広がっていきますね。
松崎氏 キット販売のようなスケール感で、本格的な家電が作れたら面白いと思いませんか。法律の規制をクリアして、メーカーがきちんとバックアップして。オリジナルブランドの家電も作ってみたいですね。ラジカセもそうですが、時代に合わなくなり市場が小さくなって大手メーカーが撤退した家電は、たくさんあります。それでも欲しい消費者はいて、数億から数十億の市場はあるのです。
enmono宇都宮氏 その市場規模はむしろ、数人の小さなメーカーの方が可能性がある気がします。ハードウェアベンチャーだからといって、新しいことをして無理にリスクを取りにいかなくてもいいじゃないですか。アメリカのシリコンバレーあたりの風潮とは違ったりしますが、シニアベンチャーは堅い道で身の丈に合ったことを楽しくやっていくのがいいですよね。
松崎氏 若い方達が先端を切り開いていく。シニアベンチャーは一獲千金を狙うよりも、それによって何人が幸せになったかを考える方が、価値感として高いと思うんですよ。今、家電メーカーに勤めていたインハウスデザイナー達が、みんなリタイアしています。その人達が持っているスキルと技術を融合して、シニアのモノづくりのなかで生かせたらいいなと考えています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.