デジタルファブリケーション時代のモノづくり――「Product for 1000」【後編】:3Dプリンタの可能性を探る(2)(3/3 ページ)
自分を含めた1000人の人のためのモノづくり――。「Product for 1000」という特別講義が、2014年8月11〜12日と同年9月16〜18日の期間、大分県立芸術文化短期大学で実施された。5日間で、学生たちは一体どんなプロダクトを生み出したのだろうか。それぞれの価値観から1000人が共感してくれるモノを模索し、カタチにしたものを「Fablab Oita」で発表した。
一緒の時間を大切にできるティーセット
友達を部屋に招いて、ゆっくりとおしゃべりをしたり、のんびりしたりする時間を大切にしたいと考える小林初実さん。彼女は、招いた人と一緒に過ごす時間を大切に思っていることを伝えられ、また遊びに来たいと思ってもらえるティーセット「with」を考案した。「従来のティーセットでもカップを重ねられるものはあったが、重ねたカップをポットの中に入れて収納できるものはあまりない。透明なポットの中で重なるカップを見せることでセット感が出せる」(小林さん)という。ちなみに、周りのガラスにカップがぶつからないような形状を試作を繰り返し行い検討したとか。ティーセットらしい曲線が印象的で、一番浅いカップはお菓子入れとしても使えるそうだ。
» 作品紹介:with
思い出を立体で懐かしむことができるアルバム
母校である山口県立徳山高等学校への思いを、ジオラマ「Tokko diorama」という作品へと昇華させた徳原佳乃子さん。「これまで思い出を振り返る場合、アルバムの写真という平面的な楽しみ方だけだったが、ジオラマの形で思い出を残すことで単に眺めるだけでなく、手で触れて楽しむことができるようになる」と徳原さんは作品のコンセプトを説明。個人で写真とともに楽しんだり、同窓会の会場に設置して皆で盛り上がったりなどの利用が考えられる。「徳山高校を愛する多くの卒業生に使ってもらいたい。今回は特に思い出の残る3年生の校舎だけを作ったが、渡り廊下や理科棟なども再現し、黒板や机などの細部もオプションとして作ってみたい」と徳原さんはアピールした。
» 作品紹介:Tokko diorama
自分だけのカワイイを追求したアイテム
ファッションが大好きな瀧本花梨さんは、自分好みのアイコンや色を選び、タイツやカバンなどを好きなようにカスタマイズできるステンシル「Wishes Charm」を考案。自分自身でかわいさ(甘さ)を調節できるアイテムがほしいと考え、このアイデアに行き着いたのだという。今回、かわいい柄のステンシルと、シュールなアイコンのステンシルの2パターンを用意。ステンシルのフレームデザインも一工夫してあり、「そのまま部屋に飾ることもできる」と瀧本さん。Wishes Charmというネーミングには、願う、おまじない、かわいく(チャーミングに)なれますようにという女の子らしい意味が込められている。単色だけでなく、少しずつ色を変えるなど自分好みに自由にカスタマイズすることができるとアピールし、彼女自身、Wishes Charmを使用して実際にアレンジしたタイツを着用。「これを使ってキラキラした自分だけの宝物を作ってもらいたい」(瀧本さん)と作品への思いを語った。
» 作品紹介:Wishes Charm
以上、6人の発表を受け、大分県立芸術文化短期大学 美術科 デザイン専攻の松本康史先生は、まとめとして「非常にハードな講義でかなり大変だったと思う。この経験が何年か後にワクチンのように効いてきて、『あのときこんな経験をしたな』と良い薬として役立つのではないか」と感想を述べた。
この松本先生の言葉通り、学生たちはこれまで経験したことのない講義にかなり苦労したようで、「いつもの課題よりも考えを掘り下げるプロセスが多くあり戸惑った」「言葉として出した価値観から実際のモノのカタチに落とし込む作業が本当に苦労した」とコメントする学生がちらほら。しかし、その一方で「自分の価値観を掘り下げてアイデアを出すというアプローチは今後もぜひ活用してみたい」「自分の価値観を知れてよかった、今後の作品にも生かしたい」「自分の作品を外にアピールする方法や手段を学ぶことができてよかった」「今後、Fablab Oitaを使ってモノづくりに挑戦してみたい」という前向きなコメントも得られた。
また、3Dプリンタの利用については、これまで先生にデータを渡して出力してもらうだけだったが、「今回全員が3Dプリンタを使えるようになった」「今後は自分で気軽に試作を出力できる環境(3Dプリンタ)がほしい」など、1つの道具として使いこなせるようになった自信をうかがい知ることができた。
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