デジタルファブリケーション時代のモノづくり――「Product for 1000」【前編】:3Dプリンタの可能性を探る(1)(1/2 ページ)
パーソナル3Dプリンタ「ダヴィンチ」シリーズを手掛けるXYZプリンティングジャパンが、日本のモノづくり分野で活躍する個人・団体を3Dプリンタで支援する活動をスタートさせた。その第1弾として、“ものづくり系女子”神田沙織氏が実施する「Product for 1000」という大分県立芸術文化短期大学での特別講義が選ばれた。学生らが自分を含めた1000人の人が欲しいと思うモノを作る。
パーソナル3Dプリンタ「ダヴィンチ」シリーズをご存じだろうか。
ダヴィンチシリーズは、台湾Kinpoグループ傘下のXYZprintingが手掛ける個人向け3Dプリンタ製品。低価格ながら組み立て不要の完成品で、箱から出してすぐに使えるのが特徴だ。その最初の機種「ダヴィンチ 1.0」は6万9800円(税込)と非常に低価格で、大手家電量販店の店頭販売も行われたことで大きな話題となった。
このダヴィンチ 1.0を発表した2014年3月。XYZprintingの日本法人であるXYZプリンティングジャパンのゼネラルマネージャー 吉井宏之氏は、「われわれのミッションは、誰もが自宅で手軽に3Dプリンタを楽しめる環境を作ることだ」と述べている(関連記事:低価格3Dプリンタの本命登場か!? ――誰でも自宅プリントを実現「ダヴィンチ 1.0」)。この言葉の通り、同社は、個人によるモノづくりの楽しさを支援すべく、ホームユースを狙った低価格な3Dプリンタ製品のラインアップ強化やデータダウンロードサービス「XYZクラウドギャラリー」を展開するとともに、さまざまなモノづくり関連の施策を打ち出している。
その1つが先日発表した、日本のモノづくり分野で活躍する個人・団体を3Dプリンタで支援する取り組みのスタートだ(関連記事:3Dプリンタで日本のモノづくりを支援、第1弾はFabLab Oita――XYZプリンティング)。その活動の第1弾として、「FabLab Oita(ファブラボ大分)」が進める大分県での地域連携授業をサポート。2014年8月11〜12日と同年9月16〜18日の期間、大分県立芸術文化短期大学で3Dプリンタを活用した特別講義を実施している。
ちなみに、XYZプリンティングジャパンはこの講義に対し、ダヴィンチ 1.0を2台、先日発表されたばかりの「ダヴィンチ 2.0 Duo」(関連記事:9万円を切るデュアルノズル搭載3Dプリンタ登場――「ダヴィンチ 2.0 Duo」)を1台、そしてフィラメント5個を提供しているそうだ。
今回、XYZプリンティングジャパンのマーケティング マネージャーを務めるSherry Liang氏と、大分県立芸術文化短期大学で特別講義を行う“ものづくり系女子”こと神田沙織氏の両名にお話を聞く機会を得たので、この取り組みの狙いや3Dプリンタの可能性について伺った。
「1000人の人が欲しいと思うモノを作る」――挑戦的な講義が始まる
――まず、XYZprintingについて教えてほしい。
Sherry Liang氏 XYZprintingは、EMS業界において世界有数の台湾Kinpoグループが出資して設立された3Dプリンタメーカーだ。Kinpoグループが長年培ってきたパーソナル/商業用プリンタ製造の研究開発ノウハウを生かし、3Dプリンタ製造に参入することになった。台湾という土地柄、モノづくりが非常に得意な企業であり、3Dプリンタの研究開発に携わっているエンジニアは100人以上。ダヴィンチを中国製と勘違いしている人もいるが、設計は台湾で行い、試作・製造はタイで行っている。高品質かつ低価格なモノづくりを得意としている。
――今回、日本のモノづくり分野の支援、大分県立芸術文化短期大学での取り組みを発表されたが、どのような狙いがあるのか?
Sherry Liang氏 ダヴィンチシリーズは、個人が気軽に利用できる3Dプリンタであり、対象となる“個人”の中には学生も含まれている。われわれとしては、家庭内のみならず、教育現場でも積極的にダヴィンチシリーズを利用してもらいたい。特に、最近はモノを買って消費するのが当たり前の時代であるため、モノづくりの大切さをきちんと若い世代に伝えたいと考えている。自分の手でモノを作る際、3Dプリンタというツールは非常に最適だ。3Dプリンタを用いて頭のアイデアを形にする。この過程からモノの大切さやその形の意味、モノづくりの楽しさを理解してもらいたい。
また、現状、3Dプリンタの利用者の多くは男性だと思うが、子どもたちや多くの女性にも使ってもらいたいと考えている。ダヴィンチシリーズは女性でも手軽に扱え、オリジナル作品を作る楽しさを満喫できる。今回、神田氏と一緒にやっていこうと思ったのも、こうした狙いがあったからだ。
――なぜ、大分県で実施することになったのか?
神田沙織氏 私自身、大分県出身でもあるが、FabLab Oitaの立ち上げ・運営に携わっていた関係で、大分県立芸術文化短期大学で講義してみないかと声を掛けてもらっていた。実際、どのような講義にすべきか検討していく中で、「自分が学生のとき、もし3Dプリンタがあったら何を作っただろうか」「きっといろいろなことができただろう」と考え、3Dプリンタを活用したテーマにしようと決定。XYZプリンティングジャパンに協力してもらい、学校側へ提案してこの講義が実現した。首都圏の大学では産学連携の一環などで3Dプリンタに触れられる機会もあるが、専門学校や地方の大学などの場合、そういった機会は非常に少ないし、遅れている。今回の講義が地方の大学と3Dプリンタを結び付ける1つのきっかけになればと思う。
学生たちに3Dプリンタを与えたら何が起きるのか。実際、どんなものが出てくるのか想像付かないが、楽しみな部分が多い。もしかすると単純に欲しいものを作るかもしれないし、こちらが思いもよらないものを作るかもしれない。学生たちがどういう3Dプリンタの使い方をするのか、ある意味実験的な内容でもある。
――講義の概要について教えてほしい。
神田沙織氏 私とファブリケーションデザイナーの平本知樹氏の2人で、「Product for 1000」という授業を、7人(女性6人、男性1人)の学生を対象に展開している。
3Dプリンタをはじめとするデジタルファブリケーション技術を活用すれば、誰かのために作ったモノを少量で販売したり、配布したりといったことが比較的簡単に行えるようになる。今回の授業では、何万人もの人のためのモノ、いわゆる大量生産品ではなく、自分を含めた1000人の人が必要だ! 欲しい! と思うモノを作ることをテーマにしている。1〜100個程度であればハンドメイドでも作ることができる範囲といえる。一方、何万〜何十万個という世界になると通常の大量生産と同じような生産流通体制が必要になる。今回のProduct for 1000は100〜1000個規模をターゲットにしている。この規模感であれば、デジタルファブリケーション技術で何とかカバーできる範囲だと考えている。
また、こうした作るための技術以外にも、実現する・届けるための手法として、クラウドファンディングやCtoCサービスなど、最近注目の周辺トピックを交えながら、企画から販売までの工程を学び、自分の考えた製品をどうプロモーションし、どう顧客に伝え、どう届けるかを考える内容となっている。
通常、製品企画から販売、プロモーションまでを一気通貫で体験しながら学べる授業は少ない。今回の特別講義は、これら全てを詰め込んで5日間全15コマ(1コマ90分)でやるというチャレンジングな試みでもある。
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