デジタルファブリケーション時代のモノづくり――「Product for 1000」【後編】:3Dプリンタの可能性を探る(2)(1/3 ページ)
自分を含めた1000人の人のためのモノづくり――。「Product for 1000」という特別講義が、2014年8月11〜12日と同年9月16〜18日の期間、大分県立芸術文化短期大学で実施された。5日間で、学生たちは一体どんなプロダクトを生み出したのだろうか。それぞれの価値観から1000人が共感してくれるモノを模索し、カタチにしたものを「Fablab Oita」で発表した。
自分を含めた1000人の人のためのモノづくり――。「Product for 1000」という特別講義が、2014年8月11〜12日と同年9月16〜18日の期間、大分県立芸術文化短期大学で実施された。
同学から依頼を受けた“ものづくり系女子”こと神田沙織さんが、3Dプリンタを活用した新しい講義のカタチを検討していたところ、日本のモノづくり支援を表明するXYZプリンティングジャパンの協力を得ることができ実現した取り組みだ。今回は、これまでの講義の振り返りと成果発表会の模様を中心にお届けする(前編はこちら)。
あらためて「Product for 1000」とは何か
Product for 1000とは、デジタルファブリケーション技術によるモノづくりプロセスを学ぶためのフレームワークとして、神田さんとファブリケーションデザイナーの平本知樹さん、広告プランナーのケイフジエダさんの3人によって考案されたものだ。
近年、データから立体物を造形できる3DプリンタのようなデジタルツールやCtoCサービス、クラウドファンディングなどがより身近なものになり、個人や小規模な組織でもモノづくりを行い、実際に販売することが可能になってきた。こうしたデジタルファブリケーション技術によるモノづくりの新しい流れ、そして一連のプロセスを体系立てて学べるよう1つのフレームワークとしてまとめ、テキスト化したものがProduct for 1000である。
この“1000”という数字は、デジタルファブリケーション技術で生産・販売が可能な規模感であり、個人でも企画から製造、流通・販売までの全プロセスを一貫して把握できる範囲だという。「メイカーズムーブメントで言われる1万個市場の文脈に似ているが、日本の取り巻く環境や文化を考えると、100〜1000個という規模感がしっくりくるのではないか」と、このフレームワークの生みの親の1人である平本さんは説明する。
今回の特別講義の実施背景には、学生らにデジタルファブリケーション技術が実現する新しいモノづくりの在り方や可能性を学んでもらうのと同時に、デザインすることの意味やこれからのデザイナーに求められる資質というものを考えてもらいたいという狙いも込められている。
講義風景:1000人が共感するモノを5日間で作る!
今回、5日間全15コマ(1コマ90分)の特別講義に挑戦したのは、大分県立芸術文化短期大学でプロダクトデザインを学ぶ専攻科の学生6人。同年8月11〜12日の2日間で行われた前半の講義では、「なぜ・何を作るのか」を企画し、デザインするところまでを実施した。Product for 1000のテキストに基づき、まず一人一人が自分の価値観を見つめ直すことから始め、その価値観を達成するための条件とは何かを明確にした上で、「何を作りたいか」というイメージを具体的に固めていった。その際、ワークシートを用いて自分のお気に入りのモノや欲しいモノをリストアップ。そこから共通のキーワードを見つけ出し、自分の価値観を見つめ直して、何を作りたいか、その製品を通じてどんなことを実現したいかを練っていったという。
「思い付きのアイデアなどで意味のないモノ(誰にも使ってもらえないモノ)を作り出すのではなく、1つのプロダクトとしてターゲットである1000人の人に対し、きちんとその製品の必要性や利用シーンが伝えられるかが重要だ」と神田さん。今回行われた自分の価値観を見つめ直すプロセスを最初に経ることで、これから作ろうとするモノに意味やストーリーを持たせやすくなり、そのモノの必要性や利用シーンにも厚みが増すわけだ。
企画出し、アイデアスケッチ、そして「Rhinoceros」を使ったモデリング(デザインのデータ化)までに費やした時間はわずか2日間。普段、学校から与えられた課題を数日かけてアイデアスケッチし、デザインに落とし込む作業を行っている学生らにとって、目の回るような体験だったに違いない。
と、前半の講義はここまで。同年9月16〜18日に行われた後半の講義までの期間、学生らはXYZプリンティングジャパンが提供してくれた「ダヴィンチ 1.0」と「ダヴィンチ 2.0 Duo」を用い3Dプリンタでの試作を実施。さらに、その成果物からデザインにフィードバックする作業を何度も繰り返し行ったそうだ。
そして、後半の講義では、そのモノがどんなシーンで利用され、どんなことを実現するモノなのかという「使われ方」の細かな掘り下げをあらためて行い、製品として目指すべき方向性をよりはっきりとさせた上で、販売方法などを検討。併せて、「Keep」「Problem」「Try」の視点でデザインのブラッシュアップを図っていく作業が行われた。また、成果発表に向けてマーケットインのために必要な要素の洗い出しや準備を行い、実際に製品ページを作り販売するイメージで、ポートフォリオ共有サービス「Behance」にアップロードするまでの作業を完了させた。
なお、後半の講義の様子を1日だけ取材させてもらったが、作業中は皆、集中し黙々と自身の作品に向き合っていたのが印象的だった。聞くところによると、夏休み期間は、帰省日程を短縮して課題に取り組んだ学生もいたようで、かなりハードな内容だったようだ。
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