「アメーバ経営」の3つの目的:いまさら聞けない 「アメーバ経営」入門(2)(2/2 ページ)
「アメーバ経営」を製造業の運営にどう当てはめるかという手法と事例を解説する本連載。第2回となる今回は、アメーバ経営で目指すべき“3つの目的”を紹介する。
経営者意識を持った人財の育成
2つ目の目的となるのが「経営者意識を持った人財の育成」です。先述した通り、リーダーには経営という判断軸で物事を見ることが求められます。そのためには、先のマーケットに直結した部門別採算制度を実現し、その運用の中でリーダーが経営者としての感覚を身に付けることが重要になります。リーダーが経営者感覚を磨いていくプロセスには段階がありますが、まずは、自部門の経営実態を詳細に把握することです。単に収入、経費、時間などの実績の内容把握をするということにとどまらず、どのような判断に基づいてそのような実績が計上されているのかという、より詳細なレベルで把握することが重要です。
経費は「掛かるものは掛かる」という考え方から、利益確保にあらゆる手を尽くすという行動を習慣化します。次のレベルとしては、経営という視点でプランニングができるということです。アメーバ経営では「予定(採算)」といいますが、当月の採算について、収入、経費、時間の全項目で予定数字を検討し、採算という形で作成します。単に計算したらこうなったというレベルではなく「意志を持って予定作成する」ということが重要です。つまり、当月の課題克服のイメージを作り、採算を確保し、業績目標を達成するための具体的なアクションプランを予定採算という形にまとめます。さらには、目標達成に執着する、高い目標にチャレンジするなどの要件があり、これらのことを通じてリーダーの経営者感覚の醸成を図っていきます(図2)。
このようなプロセスをたどるには、採算や業績を検討する場である業績検討会(経営会議、部門会議)が重要になります。会議は報告の場ではなく、経営者の価値観・判断基準を学ぶ場として運営することがポイントです。会議は短く、効率的に運用するべきですが、一方で「重要なものだ」と位置付けます。また、トップからの経営指導は貴重な時間ですので、できる限り多くの幹部社員が出席して、自部門に置き換えて聞くということが必要です。会議の質がリーダーの経営者感覚の質を決めると言っても過言ではありません。
このように、アメーバ経営の運用の中で、経営という軸で判断し、経営目標の達成に強い使命感を持つリーダーを育成することが、アメーバ経営導入により実現したい第2の目的となります。
全員参加経営の実現
最後の目的が「全員参加経営の実現」です。
この目的を達成するのにまず必要なことは、経営数字をオープンにするということです。オープンにすることで、信頼関係に基づく全員参加経営の土壌ができます。部門別採算制度の構築により、一人一人の役割発揮が部門採算にどのような影響を与えるか明確になることで、より社員の参画意欲が醸成されることになります。これまでの改善活動とは異なり、活動成果が部門採算に直結し、その部門の収支の積み上げが全社の損益につながっています。そのため、改善成果がそのまま会社の利益になるという事実が参加意欲をかき立て、やりがいを引き出すことになるのです。逆に、成果を出さなければ、マーケットから退場を余儀なくされるという厳しさも、社員全員が認識することになります。
このように、経営者感覚を持ったリーダーの下に、全社員がマーケットを意識しながら高い目標に向かってチャレンジするような「現場の組織風土の良化」がアメーバ経営の導入により実現したい第3の目的になります。
まとめ
以上のように、アメーバ経営の3つの目的を軸に導入することによって期待できる成果について、特に製造業に特化して解説しました。
最後に強調しておきたい点は、アメーバ経営はあくまでも仕組み、ツールであって、導入すれば成果が出るということではありません。特に重要なのは、会社と従業員の信頼関係が基盤になるため、従業員との信頼関係を強くする「経営理念」の構築と浸透が前提になるということです。経営理念の浸透を進めると同時にアメーバ経営の導入によって先の3つの目的が実現することで、業績向上と社員の達成感、やりがいの向上という大きな成果が期待できるのです。
⇒前回(第1回)はこちら
⇒次回(第3回)はこちら
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筆者プロフィル
松永一博(まつなが かずひろ) KCCSマネジメントコンサルティング 経営システム第1事業部 副事業部長
1991年京セラ入社、1993年にコンサルティング部門に異動。2006年にKCCSマネジメントコンサルティングへ転籍。2009年から東京コンサルティング部 部長。製造業、サービス業など約50社へのアメーバ経営導入コンサルティングを実施。三田工業(現京セラドキュメントソリューションズ)のM&Aに伴うアメーバ経営導入プロジェクトの推進などを経験した他、現在はJAL子会社へのアメーバ経営導入プロジェクトリーダーを担当している。
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