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有限要素法の集中講座を体験してみたCAEは基礎の繰り返しが大事(2/2 ページ)

MSCが2014年8月に開催した有限要素法の集中講座を体験してみた。講師の渡邉浩志氏によると、とにかく手を動かすこと、そしていろんな学習の場に出てみることも大事だという。専門はバイオメカニクスという渡邉氏は、心臓のシミュレーションをしていたそうだ。

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身近な構造物で有限要素法を解説

 セミナーではまず身近にみられる建築物やタンカー、飛行機などを例に挙げながら、設計と材料力学について語られた。例えばスカイツリーは、1次設計では1本の梁(はり)として解析がされたという。断面は円で高さが上がるに従って小さくなる円すいのような形状だ。底面は杭を打つ技術が発展したため、東京タワーのように末広がりにする必要はない。そのため底面は敷地面積で決まる。これに高さが加わると大体の形が決まる。続いて必要な部材の量から1m高さ当り何トンの鉄が必要かを算出する。この鉄を梁の形状に換算するということだ。ちなみに長いものを梁で置き換えるという発想はタンカーや飛行機でも同じだという。建築物や大型建造物は作って実験するというわけにはいかないので、1次設計を非常に慎重に行うという。

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心臓の動きの解析に取り組む

 渡邉氏の専門はバイオメカニクスということで、同氏が取り組んだ心臓の動きの研究についても一部紹介した。バイオメカニクスは、生物の構造や運動を力学的に探究する学問である。「この分野の難しさは、通常の有限要素法では太刀打ちできないこと」だと渡邉氏はいう。有限要素法は、設計図と材料物性、境界条件がそろってこそ成り立つものだ。一方、生体には設計図がない。対象にしたいのはそもそも病気の心臓だ。また時間とともに成長し個体差もある。さらに血圧などの圧力があるため、必ず残留応力がある。そのため無負荷無応力の心臓は不可能である。材料物性については、状態によって10倍、10分の1になるのも当たり前だという。また人の体内に計測器を埋め込むことは倫理的に不可能だ。しかし比較する臨床データは現場に豊富にある。そこで、病気に対して何が重要なファクターになっているのか、逆解析によって解明していくという。

 バイオメカニクスは自然界では実現できないモデルを作ることによって、そのメカニズムを解明することにある。例えば脳梗塞に対して薬による治療を行って何らかの効果が現れても、薬が効いたのか脳の別の場所の代償機能によって補われたのかは分からない。一方解析モデルであれば代償の効果を取り除けるというわけだ。

 渡邉氏が解析した例が心臓の左心室である。ここは大動脈を通じて全身に血液を送り出すため、最も筋肉が発達している。心臓は全身のエネルギーの5%を使う臓器だが、そのほとんどが左心室で消費されるというくらい強力なポンプだ。

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 当時、初めてMRIで心臓の中の流れを可視化してNatureの表紙にもなった論文があった。多くの研究者が検証を始めるなど非常にインパクトがあったという。この中で、左心室内で血液が渦を巻いているのが見て取れたが、その原因は分からなかった。論文の著者も推測を立てていたが、渡邉氏はエンジニアの視点からそれはあり得ないと判断。解析によって検討を行った結果、渦を巻くことによって、先に入ってきていた血液から流出していくファーストイン・ファーストアウトのポンプになっているとする論文を発表したという。なお流入する箇所の弁の不具合によって血液が逆向きに回転するようになった場合は、先に左心室に入った血液が出ていかないという。こうなると血が隅に滞り、血栓ができて脳梗塞や心筋梗塞につながるという。臨床では分からないことも、力学的なアプローチから医学に貢献することができるということだ。

基礎を繰り返すのが大事

 渡邉氏はセミナーの中で「型破りと形無し」という言葉を紹介していた。型がないとそれを破った新しいことを生み出することもできないため、基本をしっかり勉強することが大事だという。「有限要素法も知っているようで知らないこともある。習う際も人によって説明が違うため、しっくり来たりそうでなかったりということもある。そのため習う機会があれば、積極的に受講してほしい」ということだ。

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