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「バンビーナ」との関わりを感じられるような気がするモデルベース開発奮戦ちう(4)(2/3 ページ)

モデルベース開発に必要なツール購入も完了し、燃費世界一を目指すハイブリッド車「バンビーナ」に搭載する変速機「CVT∞」の設計がついに始まった。そこで重要になるのが、車両全体の設計を統括する自動車メーカーとの仕様のすり合わせ作業である。

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「バンビーナ」の設計要件

 今回のミーティングは、三立精機の会議室で行うことになった。鈴木さんだけでなく谷田様も来られることに。私はもちろん、山田課長も緊張気味だ。


山田

谷田様、本日は御足労頂きありがとうございます。


谷田

こちらこそ御社のモデルベース開発を拝見させて頂けること、感謝します。


 大島さんと五十嵐さんは、モデルの構成やシミュレーションの性能に触れながら、現状でできること、改善すべきことを技術者としての所感を交えながら説明した。

山田

恐らくCVTとしてはそれなりの振る舞いをすると思っています。従来通りの開発ならびに仕様であれば、私たちも楽ができそうです。しかし、このように実機に近い再現性があるとなると、性能面の改良や緊急時の対処など、より次元の高いCVTの仕様決めの要求も出てくると考えているのですが。


谷田

実はそういったことを考えています。自動車メーカーが最も恐れるのはクレームです。お客さまに不満を感じさせるのは、とても心苦しいことです。従って、単に故障という概念ではなく、お客さまの期待を裏切らない性能が実現できていることの検証が必要だと考えています。そのためには皆さんと協力して、お客さまが求める性能を満足させられるような設計仕様や設計諸元を明らかにしたいのです。そこで、鈴木に仕様を決めるために必要となる技術的詳細を説明させます。


 鈴木さんは、車両重量が800kgと軽量で、排気量1l(リットル)のエンジンとCVT+パラレルハイブリッドシステムによって40km/lの燃費達成を目指す「バンビーナ」についての技術的な説明を行った。

  • 要件1:最適燃費運転条件をトレースする。
     エンジン速度とエンジン正味トルクが、図1の燃費最適条件をトレースすることが燃費を最適化する基本戦略である。これは、CVTの減速比とスロットル開度の制御により行われる。
図1
図1 最適燃費運転条件はエンジン正味トルクが正となる条件を規定しているが、負になる場合は何も規定していない。燃費を最適にするためには、エンジン正味トルクが負になる条件では燃料をカットする(クリックで拡大)
  • 要件2:モーターアシストトルクを利用して、可能な限り燃料消費率が低い運転条件を多用する。
     例えば、エンジン回転数が1500rpm以上で加速する際には駆動出力をモーターでアシストし、エンジン速度を下げ、より燃料消費率が高い運転条件とする。モーターアシストにより消費した電気エネルギーは、燃料消費率が低い運転条件で充電する。
  • 要件3:アイドリング中はエンジンを停止し、復帰時はスムーズにエンジンを起動する。
  • 要件4:燃料カットを可能な限り利用する。
  • 要件5:定常走行状態ではバッテリーのSOC(State of Charge:充電状態)を80%で制御する。
     要件2によってSOCの充放電制御を行うが、定常状態ではSOCの目標値は変えないものとする。
  • 要件6:減速時に車両の運動エネルギーを電流許容値の範囲で回生する。
     ブレーキペダル応力に応じて、制動力が働くようにブレーキとの協調制御を行う。

 これらの他、車両としての要求レベルでのモデルも提示された。

 具体的には、各サプライヤが入力に対してあってほしい出力がモデル化されていることや、自動変速制御としては要求トルクが与えられるためこれに追随する最適な変速制御を実現することが重要、といったものであった。

大島

なるほど。とすると、エコモード走行時はその図1の最適燃費運転条件に合致するようなCVTの変速を算出するのですね。やはり、エンジンのトルクが必須ですね。


 大島さんの問いかけに、鈴木さんは即座に回答した。

鈴木

今回の開発では、各サプライヤにトルクをコアパラメータとして開発していただきます。例えば、エンジンが100のトルクを出すとき、エアコンには10のトルク、発電機には15のトルク、残りがCVTに供給されるといった具合です。その時、エコ走行を実現するCVT変速比に制御するよう仕様を決めていけばよいわけです。


大島

ではCVTの動作に関する仕様はこちらで決めて、動く仕様書を添えて御社に納品する、ということでOKですね。


鈴木

はい。それが自動車の品質を改善するすべのはずです。なお、こちらがモード燃費での走行に必要となるバンビーナのトルク出力モデルになります。車両の慣性や、ドライバーの操作もモデル化してあります。CVTの制御システムを開発する上で、十分ご期待に応えられると思いますよ。また、こちらはわれわれが実践しているV字プロセスという開発の流れを説明した資料になります。ご参考にどうぞ。


 全員が、これまで以上の連帯感を実感した一瞬だった。

京子

よ〜し。私、前のめります!


 これまでの緊張をときほぐすように、全員の笑い声がこだました。

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