アップルにあって日系電機メーカーにないものは何か?:再生請負人が見る製造業(2)(2/5 ページ)
企業再生請負人が製造業の各産業について、業界構造的な問題点と今後の指針を解説する本連載。今回は苦境が続く日系エレクトロニクス産業について解説する。
日系製造業が学ぶべきアップルの「縮む勇気」
日本のエレクトロニクス企業が苦境から脱するための解を見いだせていない一方で、B2C事業で大きな成長を遂げてきた米国企業の代表にAppleがある。倒産の危機にあったAppleの2000年代以降の急成長については、CEOである故スティーブ・ジョブス(Steve Jobs)氏のカリスマ性とともに語りつくされている感があるが、その中で見過ごされている重要なことがある。それはジョブス氏がCEOに就任する直前の1996年から、就任2年目の1998年にかけて売り上げを40%落としながら事業を利益体質に持ってきたことである。
これは以下の3つのポイントを示している。
- 商品ライン全体を見て、収益の上がらないものを大胆にカットして事業縮小すると同時に、次に賭けるべき戦略領域(その時点のAppleにとってはiMac)を見いだしてそこにリソースを重点配分した
- 商品ラインを大胆にカットすることで人員も圧縮し、一時的に特別損失を出しながら、小さな売上高でも利益を上げられる事業構造にいち早く転換した。これは同時に次のステップのための財務基盤を確保する意味もある
- その上で新たなビジネスモデルを構築する
Appleについては「新たなビジネスモデルの構築」に大きなスポットライトが当たっているが、実際には存続の危機の中でiMacという商品を打ち出してから、ビジネスモデル創出の転換点となるiPod発表までは4年という期間が必要となっている。その新たなビジネスモデルの模索を支えるための財務基盤があればこそ、その時間を得ることができたということもできるのだ。
日本のエレクトロニクス企業にとって、Appleから学ぶべきことは、まずは「縮む勇気」ではないだろうか。それは、現在日本企業が行っている、事業が縮小してやむを得ず漸次的に事業を切り売りし、結局次の成長の芽を何も生み出すことができなくなるという、場当たり的なものではない。縮む時には一気に縮んで、次の成長の機会を探るための時間を確保する財務基盤を迅速に構築し、その基盤の元、新しい事業に集中的に投資するということだ。
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