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製造の未来を切り開くロボットセルの価値と課題ロボットセル(3/4 ページ)

ロボットが多能熟練工になる!? ――。装置型産業における生産の自動化が進む一方、人手による作業が多かった組み立て生産領域の自動化が急速に進もうとしている。そのキーワードとなっているのが「ロボットセル」だ。ロボットがセル生産を行う「ロボットセル」はどのような価値をもたらし、どのような課題を残しているのか。日本ロボット学会会長の小平紀生氏が解説する。

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ロボットによるセル生産のメリットは

 ここまで、製造業全体の変化からロボットによるセル生産が生まれたプロセスを解説してきました。小さな投資額で多くの製造品目に対応できる生産設備は理想ではありますが、全てのモノづくりでロボットによるセル生産がベストな選択というわけではありません。もちろん専用の製造装置によるライン生産や人手作業の方が適していると判断できることも多くあります。

 生産設備導入に際し、最も重要な評価基準は「投資対効果」です。ところでここで指す「効果」とは何でしょう。生産性向上、人件費削減、品質向上、利益拡大、原価低減、切り口はさまざまですが、要はその工場から「競争力のある製品を生み出す」ことが目的です。「投資」の方はどうでしょう。直接的にはその生産設備の購入費用を指しますが、間接的な投資もさまざまなものがあります。その生産設備を導入することで、必要になったり不要になるものなどの費用もあるかもしれません。生産設備の稼働に関わるエネルギーなど、ランニングコストもあります。品質維持費や各種情報管理費などもあります。

ロボット

 まず、人手作業と機械による自動化の投資対効果を比べてみましょう。機械による自動化に期待できるのは、規模と安定の獲得です。もちろん人(直接人件費)は減らせるのですが設備費用とトレードオフの関係になります。長く稼働して累積生産量が増えれば増えるほど機械による自動化は有利になります。ところが工業製品全般の製品寿命が短くなっており、「長く稼働する」ということが難しくなり、優位性は微妙なものになってきています。あえて人手作業に戻すという選択もありますが、自動化技術の発達した日本の製造業では、自動化を継続的に進めたいというニーズは強いものがあります。そこで、コンパクトで自由度の高い自動化生産設備としてロボットによるセル生産が求められるようになってきました。これは特に日本においては、自然な選択肢といえるでしょう。

 また、ロボットを活用するライン生産とセル生産の投資対効果についても比較してみましょう。ここでは双方ともロボットを使用することを前提とします。例えば、5台のロボットを並べ製品を順送りしながら組み立てを完了するラインと、ロボットが5種類の作業を連続して行うセルの比較をしてみましょう。

 ラインは5台のロボットが同時に作業をしていますが、セルは1台のロボットが順番に作業をしますので、生産能力はラインの方が格段に上です。ただ、ラインの場合は作業ごとのタクトタイムの違いやワークの搬送や位置決め時間でロボットが待たされる時間も発生します。また、ラインの方は製品の搬送機構などが必要ですが、セルの方は5種類の作業に必要な装備が必要ですので、設備費用やレイアウトの面でどちらもある程度の制約が発生します。

 セル生産が有利になるのは、実は定常稼働時ではなく過渡的な状況です。生産設備を新設する場合、試作的な段階から1セルを立ち上げて各種の調整を行った上、生産量が増えるに従ってコピーセルを導入していくということが可能です。製品の生産量変動に柔軟に対応できる点も魅力となります。生産量拡大時はコピーセルの増設、生産量減少時には一部のセルを稼働停止、もしくは別の製品の生産に転用できます。

 別の製品に転用というポイントをもう少し詳しく見てみましょう。ライン生産の場合は、機種変更作業はライン全体を止めるなどの大掛かりな作業が必要になりますが、セル生産では段階的に切り替えることができます。そのため、生産全体への影響も押えられます。変種変量生産とセル生産の相性の良さはこのようなセル生産の可搬性や柔軟性にあるといえます。

ロボットセル生産の課題は

 現在のロボット技術で、目的とするセル生産を容易に実現できるケースもありますが、解決すべき技術課題は多い、というのが実情です。例えば、電気製品の組み立て作業をセルで実現するためには、同じロボットで部品を運び、ねじを締め、バネを押え、コネクタを挿入する、といった複数の作業をこなす必要があります。それぞれの作業に適したハンドと治工具を取り換えながら、というのでは設備コスト的にも、タクトタイム的にも得策ではありません。

 ロボットセル生産の場合は、とにかくハンドの種類と治具の種類を減らして、ロボットに苦労させるという方が有利です。専用の治工具が増えれば増えるほど生産の柔軟性は落ちます。ですから、ロボット側にさまざまなセンサーを搭載して知能化を図ることで、解決につなげていきます。

 「さまざまな外界センサーを応用したロボットの知能化」は1980年当時からいわれ続けてきたことですが、実際に力覚センサーやビジョンセンサーを搭載したロボットを生産現場向けで採用することはまれでした。ライン生産のように分業化された個々の作業をこなすロボットにとって数十万円のセンサー類は、高額です。しかし、セル生産のように複数の作業を実現する効果があれば、同じ数十万円でも価値は格段に上がります。最近になって、力覚センサーや二次元/三次元のビジョンセンサー活用したロボット応用技術が活発に開発されるようになった背景には、セル生産のような複数の複合作業を実現したいニーズが強くなったことが要因としてあります(図5)。

自動化セルの構成例
図5:自動化セルの構成例(クリックで拡大)

 研究開発として取り組む場合は「ロボットに苦労させるという方針」を目指すことになりますが、現実にビジネスとして設備導入を進める場合は、技術リスク、設備コスト、開発期間などを考えたそれぞれの関係性から結論を出さなければなりません。実際に投入する生産設備の良しあしは、最終的には身の丈にあわせた絶妙な妥協ができたかどうかで決まります。ロボットと人手作業との複合型セルもあるでしょうし、サブアセンブリのロボットセルとライン生産の複合型もあるでしょう。製品設計や製造工程を変更した方が良い場合もあります。ここで何を見送ったかは研究開発や次の製品化に対する大変重要なフィードバックとなります。まだ発展途上のロボットセル生産ではこの研究開発と実設備導入を繰り返すことにより成熟したものになっていくと思います。

 知能化ロボットによる複数作業をこなすセル生産では、ティーチングやプログラミングも難しくなります。対話型プログラミング、シミュレーション、動作の最適化学習機能、センサーを併用するインテリジェントティーチングなど、セル生産の立ち上げ作業やプログラミング時間を短縮する提案はこれまでも多くありました。まだ、高度な立ち上げ支援ツールが実際の製造現場に広く適用されるようにはなっていませんが、セル生産に向いたエンジニアリングツールの実用化、製品化が必要になってくるでしょう。特にシステムインテグレーターにとっては、いかに短時間でシステムを立ち上げられるかが収益性に直結する課題となります。また、システムインテグレーターの収益性は、セル生産普及の重要な要因になってきます。

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