新型「コペン」は“新たなモノづくり”を見せたのか:車両デザイン(4/4 ページ)
ダイハツ工業の新型「コペン」が2014年6月に発売された。「東京モーターショー2013」で公開されたコンセプトカーの段階から新型コペンを追い続けてきたプロダクトデザイナーの林田浩一氏に、新型コペンの目指す“新たなモノづくり”や販売手法などについて分析してもらった。
もの足りないこと(応援を込めて)
筆者がプロダクトデザイナーとしてモノづくりと関わる中で、自身の関心のあるテーマとして設定しているものの1つが「余白を持つモノづくり」である。ソーシャルメディア時代になって以降は、メーカーが発売した時点のプロダクトが必ずしも完成形である必要はないのではないか、という考えがますます強くなってきている。ユーザーや他のクリエーターが新たに手を加えることができる余白をあらかじめ残しておくことで、大量生産品と一品モノの工芸品の間にあるようなモノができるし、それがユーザーの愛着や小さな「いい気分」につながれば新たなビジネスの可能性も出てくる。
東京モーターショー2013の会場で新型コペンに興味を持ったのは、クルマでそういった考えを実践しようという動きが見えたからだ。MONOistでの記事でもその部分を中心に置きながら、ショーカーから量産モデルまで観察してきた。
いよいよ市販される商品となり、DRESS-FORMATIONを核とした、新しいクルマの作り方、売り方、ユーザーとの関わり方といったことについて、ダイハツが新たな取り組みを始めるのだというメッセージは見えてきた。しかし全体を見たとき、どこかうまくかみ合っていないような、物足りないような感じが拭えないのはなぜだろう?
最大の理由は「人が見えない」ということかもしれない。
新型コペンが訴求する「自分らしさを表現できるクルマ」を実現する上では、ユーザーとのコミュニケーションが鍵となる。
現時点では、CEの藤下氏をはじめとした新型コペンの作り手の思いを伝える語り部を除くと、新型コペンを送り出す側の人とユーザーとのコミュニケーションの姿は見え難い。ソーシャルメディア時代になって以降、エンドユーザーとのコミュニケーションは販売店任せにできず、モノを作るメーカーにも求められるようになってきていると感じる。
新型コペンでも、東京モーターショー2013の開催前からFacebookページや専用Webサイトを立ち上げて情報を伝え、ユーザーからの投稿も求めたりしている。しかし「中の人」の存在感は希薄だ。コミュニケーションが鍵となるビジネスモデルを新たに展開しようとしているのに、Facebookページや専用Webサイト上のユーザーと対話のキャッチボールをしないのはなぜだろう?
コペンサイトに配置されるコペンスタイリストとはどのような人なのか。単にコペンに詳しい人? コペンサイトに訪れるユーザー同士をつないだりもするのか? コペンサイトは初代コペンオーナーには何を提供する場なのか?
今回の新型コペンは、「スポーツカー」としての動的な魅力を訴求されているにも関わらず、メーカー直営拠点のコペン ローカルベース 鎌倉において、試乗なり短時間レンタルなどでクルマに乗せたりしないのはなぜなのか。そこで発信される「情報」とは?
地域でもダントツに魅力あるカフェとして集客し、そこでコペンに興味を持ってもらうというストーリーも“アリ”なのかもしれないが、せっかくのオープンカー、しかも小さな軽自動車なのだし、たくさん体験させないのはもったいないのでは? 東京都心で展開している「メルセデス・ベンツ コネクション」でも、カフェレストランやギャラリースペースに試乗体験をパッケージしているのだからできなくもないのでは、と思ってしまう。
クルマの仕組み、運営の仕組みとしては可能性を秘めていると感じる分、もの足りないと感じることが大きいのかもしれない。繰り返しになってしまうが、ダイハツが新型コペンでやろうとしていることの鍵は、ユーザーとのコミュニケーション力だ。そしてそのコミュニケーション力は望む望まないに関わらず可視化されやすい時代でもあると思う。人による部分が大きなものだけに、成果が見え始めるまでに時間の蓄積も必要であろう。
2014秋のXモデルの後、2015年中盤に第3のモデルが投入された頃には、マツダの新型「ロードスター」やホンダの「S660」の姿も見えているはず。その段階では、新型コペンの世界観がある程度はっきり見えてきているのかもしれない。
以前からアナウンスされていた「モノづくりを志す人との情報共有」についても、今回は特にその後の進展などの紹介がなかったのも「もの足りない」の1つではあった。しかしダイハツの広報部に問い合わせたところ、「情報共有を基に開発中のものや、他社とのコラボで推進しているDRESS-FORMATIONのバリエーションの開発も進んでいる」とのことであった。
さて、新型コペンを機に、ダイハツはワクワクとしたユーザーエクスペリエンスを創り出すブランドである、というイメージを獲得できる方向へと踏み出したのだろうか?
今回の発表会で藤下氏のプレゼンが、「新型コペンすごいでしょ!」というクルマ主体のメッセージでなく、箱根で開催されたプロトタイプ車両によるテストドライブに招待された一般ユーザーの笑顔の写真や動画で締めていたことに注目して、今というより数年後の姿を楽しみとしたい。
Profile
林田浩一(はやしだ こういち)
デザインディレクター/プロダクトデザイナー。自動車メーカーでのデザイナー、コンサルティング会社でのマーケティングコンサルタントなどを経て、2005年よりデザイナーとしてのモノづくり、企業がデザインを使いこなす視点からの商品開発、事業戦略支援、新規事業開発支援などの領域で活動中。ときにはデザイナーだったり、ときはコンサルタントだったり……基本的に黒子。2010年には異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。最近は中小企業が受託開発から自社オリジナル商品を自主開発していく、新規事業立上げ支援の業務なども増えている。ウェブサイト/ブログ、誠ブログ「デザイン、マーケティング、ブランドと“ナントカ”は使いよう。」などでも情報を発信中。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 見えてきた新型「コペン」のカタチ
2014年6月の発売が決定したダイハツ工業の新型「コペン」。同年3月末の技術説明会に参加したプロダクトデザイナーの林田浩一氏に、注目を集める新型コペンが、どのような車両に仕上がるのかを分析してもらった。 - 「KOPEN」はモノづくりの新しい仕組みのアイコンとなるのか(前編)
ダイハツ工業の軽スポーツカーのコンセプトモデル「KOPEN」は、ボディに用いる樹脂外板の“着せ替え”ができることに加えて、その樹脂外板のデータを一般公開する方針によって注目を集めている。プロダクトデザイナーの林田浩一氏が、KOPENのデザイン担当者である和田広文氏へのインタビューを通して、その狙いを読み解く。 - 「KOPEN」はモノづくりの新しい仕組みのアイコンとなるのか(後編)
樹脂外板をスマートフォンケースのように“着せ替え”られる、ダイハツ工業の軽スポーツカーのコンセプトモデル「KOPEN」。このKOPENが生み出そうとしている「モノづくりの新しい仕組み」について、プロダクトデザイナーの林田浩一氏による分析と提言をお届けする。 - 新型「コペン」、成功の鍵は「自分らしさの表現」にあり
ダイハツ工業は、軽オープンスポーツカー「コペン」をフルモデルチェンジすると発表した。新型コペンは、樹脂外板の着せ替えによって「自分らしさの表現」が可能なことを特徴としている。同社は、この「自分らしさの表現」をサポートすべく、さまざま施策を展開する予定である。