Automotive Grade Linuxが開発成果を発表、リファレンスは「Tizen IVI 3.0」:車載情報機器
Linuxベースの車載情報機器関連のオープンソースプロジェクト「Automotive Grade Linux(AGL)」が、開発したソフトウェアの最初のバージョンを公開。東京都内で開催中の開発者向けイベント「Automotive Linux Summit 2014」では、リファレンスプラットフォームとなっている「Tizen IVI」の開発状況やAGLの開発成果が紹介された。
The Linux Foundationは2014年6月30日(米国時間)、Linuxベースの車載情報機器関連のオープンソースプロジェクト「Automotive Grade Linux(AGL)」が、同プロジェクトで開発したソフトウェアの最初のバージョンを公開したと発表した。東京都内で開催中の開発者向けイベント「Automotive Linux Summit 2014」(同年7月1〜2日)の基調講演では、AGLの活動のリファレンスプラットフォームとなっている「Tizen IVI」の開発状況と、AGLの開発成果が紹介された。
まず、Intelのシステムエンジニアリグ担当ディレクターを務めるMark Sharpness氏が、Tizen IVIの開発状況を説明した。
Tizen IVIは車載情報機器(In-Vehicle Infotainment)向けに、Tizenプロジェクトが開発を進めているLinuxベースのソフトウェアプラットフォームだ。Tizenと言うと、Samsung Electronicsが開発を主導するスマートフォン向けのソフトウェアプラットフォームというイメージが強いかもしれない。しかし、スマートフォンに用いられているのは「Tizen mobile」である。これに対してTizen IVIの開発は、Intelが主導してきた。
Tizen IVIは2014年7月の時点で最新バージョンは3.0であり、このTizen IVI 3.0はAGLのリファレンスプラットフォームになっている。Tizen IVI 3.0は、HTML5ベースのアプリケーションの活用が容易なことを特徴としている。ランタイムエンジンは、Googleのオープンソースのレンダリングエンジン「Blink」をベースにIntelが開発した「Crosswalk」を採用。カーネルは64ビットで、32ビットのようなメモリの制限がなく、4Kなどの次世代コンテンツにも対応可能だ。ディスプレイマネージャーはマルチディスプレイに対応するWaylandとなっている。
Tizen IVI 3.0がブラッシュアップを続ける一方で、最近になってTizen IVIの開発を行うTizenプロジェクトの開発体制に変更があった。今後は、現在のTizen IVIとTizen mobileの共通部分となる基礎プラットフォーム「Tizen Common 3.0」に、個別のアプリケーションに対応するプロファイルを追加する。Tizen IVIであれば、Tizen Common 3.0にIVIプロファイルを追加することになる。
Sharpness氏は、Tizen IVIを紹介するとともに、「AGLやTizen IVIのようなオープンソースプロジェクトでは『アップストリーム・ファースト』が重要だ」と訴えた。アップストリーム・ファーストとは、プロジェクトで使用しているオープンソースソフトウェアの修正や改善のパッチをプロジェクト内で管理せずに、まずは対象となるオープンソースプロジェクトへコードをコントリビュートし、その後に必要なコードがマージされた状態のアップストリームコードを使用するという開発手法のこと。ソフトウェアが更新されるたびに変更点をメンテナンスするコストを軽減できる。
AGLへの1ドルの投資が数十ドルの価値を生み出す
AGLの成果については、Jaguar Land Rover(ジャガーランドローバー)のシニアテクニカルスペシャリストのMatt Jones氏が紹介した。
AGLでは、リファレンスプラットフォームのTizen IVI 3.0で動作する、車載情報機器に必要とされるさまざまなソフトウェアコンポーネントを開発している。ソフトウェア開発には、Jones氏が所属するジャガーランドローバーや、Tizen IVIの開発を主導するIntelなど多数の企業が参加している。一方、車載情報機器に適用するための要件設定は、トヨタ自動車やデンソー、日産自動車が担当している。
今回、最初のバージョンとして公開したのは、開発を予定している30のソフトウェアコンポーネントのうち9つ。車両側の制御信号を受け取るためのAMB(Automotive Message Broker)、ホームスクリーン、DLNA準拠のマルチメディア再生、Google Mapsを用いたナビゲーション、HTML5ベースのニュースアプリなどだ。各コンポーネントには、詳細設計要件書(Design Requirements Document:DRD)とその説明書の他、使用事例、HMI(Human Machine Interface)フロー、画像、アーキテクチャ図などが含まれている。
AGLで開発中のソフトウェアコンポーネント。緑色で示したものが、今回の最初のバージョンで公開された。黄色で示したものは開発中で、赤色で示したものは今後開発する(クリックで拡大) 出典:Automotive Grade Linux
Jones氏は、「製品のコンンセプト設計から最終的な実装までにかかる期間は平均で39カ月。これに対して製品の寿命は18カ月と短い。AGLのようなオープンソースプロジェクトが、コンセプトを実証するPOC(Proof of Concept)プロセスを担うことで、このギャップを埋められるようになる。AGLの参加メンバーが1ドル投資すれば、それが回り回って数十ドルの価値になり、その収益を再度投資すればさらに大きな価値が生まれるというサイクルが生まれるのだ」と述べている。
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