モデルベース開発を成功させるには相応の投資が必要です:モデルベース開発奮戦ちう(3)(1/4 ページ)
モデルベース開発を行うにはさまざまなツールを購入する必要がある。事業担当者にとってツールの選定と予算確保は悩みの種。それは、主人公の京子の上司である山田課長にとっても例外ではなかった。
前回のあらすじ
燃費世界一を目指すハイブリッド車「バンビーナ」の開発に関わる中で、モデルベース開発を一から勉強している電装部品メーカーの若手女性技術者・小野京子。初めて参加した自動車メーカーの「大部屋会議」に圧倒されつつも、モデルベース開発に“前のめって”いくのだった……(前回の記事へ)。
山田課長の悩み
豊産自動車での大部屋会議が終わって数日。山田課長が頭を抱え込んでいた。
モデルベース開発を行うには、実に多くのソフトウェアや装置といったツールが必要になる。開発を迅速に行えるようにするには、これらのモデルベース開発に必要なツールを複数購入しなければならない。
山田課長は、最適なツールの選定と、そのために必要な予算確保について、さっきから悩んでいるのだ。モデルベース開発のツールはとても高価なので、必要だから何でも買えばいいというわけではない。真に必要なものを見極めて投資する必要があるのだ。
参考資料になっているのが、JMAABのモデルベース開発推進ワーキンググループが作成したツールチェーンに関する資料だ。モデルベース開発を7つの領域に分け、各領域をさらに細分化してそれぞれに必要な技術や手法などを説明している。
JMAABが作成したモデルベース開発のツールチェーンに関する資料。モデルベース開発を7つの領域に分け、各領域をさらに細分化してそれぞれに必要な技術や手法などを説明している(クリックで拡大) 出典:JMAAB
MathWorksのMATLAB/Simulink/Stateflowは絶対必要っと。後はモデルからソースプログラムを生成する自動コード生成ツールと、HILS、モデル検証用のソフトウェアっと。あとRCPはどうしようかな?
ぶつぶつと独り言を言いながら悩んだ末、山田課長は必要なツールのリストアップを終えたようだ。
京子ちゃん、モデルベース開発に必要なツールをリストアップしたから、その提供先(ベンダー)について調べておいて。MATLAB/Simulinkについては、製品オプションが多いので、必要なものが分かりにくいのよ。前に話を聞いてくれた、飯田さんだったかしら? アポをとって詳細を聞いておいてちょうだい。検証用ツールも何社かありそうよ。でも大事なのは開発したCVT∞の品質を検証するということ。その方向でベンダーを選んでおいて。予算を提出しないといけないから至急でお願いね。
まず、山田課長が「絶対必要」と言ったMATLAB/Simulink/Stateflowからだ。使うことが決まっているとはいえ、オプション製品がとてもたくさんある。もちろんWebサイトに説明はあるけれども、私たちにはどういったオプションが必要なのかさっぱり分からない。
そこで山田課長の指示通り、前に話を聞いたMathWorksの飯田さんに連絡をとってみたところ、
それでは説明会をやりましょう!
と快諾してもらえた。
数日後、三立精機の会議室で開かれたMathWorksの説明会では、MATLAB/Simulink/Stateflowはモデルを作成しシミュレーションするのに最低限必要なソフトウェアであり、解析結果から自動でリポートを作成する、ソースプログラムを生成する、モデルの動作を検証する、プラントモデルを扱う、モデルを実行した時に扱う小数点を固定する、といった多くのオプション製品が存在することを知った。
どのオプション製品を購入するかはよく検討する必要がありそうだ。説明会では、Webサイトだけで分からない情報も得られたので、検討作業は進められそうだ。
モデルを検証するツールの1つである“HILS”のベンダーは数社あったが、その中からJJテックとΣテクノロジーの2社に絞ってさらに調査を進めた。両社とも“RCP”という装置も販売している会社だ。何とJJテックのツールは、豊産自動車での採用事例もあるという。
そういえば鈴木さんの資料にRCPという言葉があったような。ちょうどいいや、HILSとRCPのこと、一緒に調べちゃおう。
HILSは、Hardware in the Loop Simulationの略で、制御対象モデル(プラントモデルと呼ばれる)をリアルタイムで動作させられる高性能のコンピュータを使って、開発したECU(電子制御ユニット)の動作をシミュレーションによって確認するツールのことだ。
「バンビーナ」の開発プロジェクトで私たちが担当する分野を例にとれば、「CVT∞」の機構の動作を模擬するプラントモデルと、CVT∞を制御するECUを連動させてさまざまな条件でシミュレーションを行い、ECUに問題がないかを調べるのに使う。
一方、RCPは、Rapid Control Prototypingの略だ。汎用ECUとなるコンピュータに、制御モデルを組み込んでリアルタイム動作をさせて、制御モデルの良否を判断する際に用いる。HILSは開発全般で使うけれども、RCPはモデルを作り込む開発の初期段階で利用するツールだ。
MathWorksの説明会から数日後、JJテックとΣテクノロジーの説明会もそれぞれ別の日に実施されることになった。話を聞いたところ、どちらも甲乙付けがたいという印象。最終的には、豊産自動車の採用実績があるJJテックに軍配が上がった。豊産自動車と三立精機の間で、互いにプラントモデルやテストケースを共有できる可能性があるからだ。
検証用ソフトウェアについて調べてみると、こちらも数社ほど候補が見つかった。ただ、山田課長からの要求は「開発したCVT∞の品質を検証する」というものだった。それには、「オブジェクトプログラムの検証」に不具合がないことを検証しなければならないように思えた。人間が理解しやすいC言語に対して、コンピュータが理解できるプログラムをオブジェクトプログラムと呼ぶ。そして、組み込みシステムを実際に動かすプログラムこそが、オブジェクトプログラムだからだ。
その他にも、モデルの段階で検証できるツール、C言語やオブジェクトプログラムで検証できるツールなどいろいろな段階で検証できるツールがあることが分かった。これらの検証用ツールについても、幾つかのベンダーに説明会を開いてもらった。
説明会の嵐が終わってから、MATLAB/Simulink/Stateflowのオプション製品、HILS、RCP、検証用ソフトウェアについて報告書を作成し、山田課長に提出した。
よくまとめられているわ。ありがとう。見積もりも取っておいてくれる?
はい、早速依頼します!
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.