原価で飲める原価バー!? ところで「原価」って何なの?:いまさら聞けない原価管理入門(2)(1/2 ページ)
「いまさら聞けない原価管理」として、原価管理の基礎を分かりやすく解説する本連載。2回目はさまざまなものが存在する「原価の種類」について解説します。
最近「原価で飲めるバー」なる酒場を見掛けるようになりました。このバーの方式は店の利益を顧客から受け取る入場料のみとし、店内でのお酒や食べ物は「原価」で提供するというのが特徴です。残念ながら、筆者自身はまだ利用したことがないので、この手の店の「QCS(味、価格、サービス)」についてコメントできませんが、実は「原価」にはいろいろな種類があります。前回は「利益」の種類について解説しましたが、今回はこの「原価」の種類について解説していきます。
まず、企業の財務諸表に書かれているものとして以下の2つの原価があります。
- 売上原価:会計年度での売上高に対応する原価。売れた製品に対し、作るもしくは仕入れるのに掛かった費用を指す
- 製造原価:会計年度内に完成した製品に対応する原価。製品を作るのに掛かった費用(材料費、労務費など)を指す
ここで、売上原価と製造原価の関係を示すと次のようになります。
当期売上原価 = 期初製品棚卸高 + 当期製造原価 − 期末製品棚卸高
棚卸高とは分かりやすくいえば在庫の合計金額のことです。売上原価は、製造原価に期初と期末の棚卸高(在庫)の増減を加えたものとなります。売上原価は製造あるいは仕入れ時期に関係なく「売れた製品」に対して掛かった費用となっていることがポイントです。どんなに製造原価が高くても売れなければ、売上原価としては計上されません。製造原価が掛かっているということはお金(キャッシュ)は企業から出ていっているのに損益計算書上では、そのことが見えないという事態も起こり得ます。
製造原価の3つの視点
さて、ここからは製造原価について見ていくことにしましょう。原価のとらえ方には大きく3つの視点があります。それぞれに2つずつの原価計算方式があるので、合計6種類について紹介します。製造原価の3つの視点とは「生産形態別」「原価計算算定基準別」「原価計算範囲別」となります。
生産形態別:受注生産か見込生産かの違いに基づくもの
- 個別原価:主に受注生産に対して適用されます。個々の受注に対して製造オーダーを割り振り、その製造オーダー単位で原価を計算していくというものです。
- 総合原価:主に同じ製品をまとめて生産する見込み生産に対して適用されます。原価計算期間中に生産された製品に対して要した費用を総合的にとらえます。それを生産単位当たりに均等配分して(生産数で割って)原価を計算するものです。
原価計算算定基準別:原価計算を行う際に実際に発生した金額を基準とするか、発生を想定される金額を基準とするかの違いに基づくもの
- 実際原価(実績原価):原価計算上の諸要素(費目)に対して実際に要した価格や消費量を基に原価を計算していくというものです。実際に発生した金額から算出するので、歴史的原価、過去原価という呼び方をする場合もあります。
- 標準原価:製品を生産するために要する材料使用量や価格、作業時間などをあらかじめ標準として設定しておき、同標準値を基に原価を計算していくというものです。「将来発生する原価」とも言え、未来原価という呼び方をする場合もあります。
実際原価の方が正確な数字が得られて望ましい方式のように感じられるかもしれませんが、企業での実際の活動では次のような悩ましい場面も数多く出てきます。
例えば、月度なり年度なりで決算するためには、実績収集を行うための期間が必要となります。そのため個別製品の原価がすぐに出せません。また、各月によって生産量と発生金額が全く同じになるような理想的な操業はほぼあり得ませんので、毎月製品の原価が異なることになります。これらの影響により、営業部門は製品売価をいくらで設定すべきといった基準が見えなくなります。さらに、生産部門にとってもコストダウンの目安が不明確になってしまいます。そのため、損益管理のPDCAサイクルを回すことが難しくなってしまいます。
そこで標準原価を採用し、事業部門として個別製品原価に対する統一した基準である「未来原価」を設けて損益管理を行っていくことで、迅速なアクションを実現しようという動きになります。ただあくまでも標準原価は「予定される発生原価」であり「発生した原価」ではありませんので、標準原価と実際原価との差異を明確にし、その内容を分析することが重要なプロセスとなります。
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