目指せ仕切り上手! 会議が変わるファシリテーション(その1):レイコ先生の「明日から使える! コミュニケーションスキル」(3)(3/3 ページ)
今回は会議を上手に仕切るために必要なファシリテーションのスキルについて学ぶ。「そもそも、なんのために集まっているのかはっきりしない」「発言するのは同じ人ばかり」――そんな悩みに応える。
意味付け:グルーピングで発言を整理する
拡散のプロセスで発言がたくさん出た後は、議論を収束させる段階へと移っていきます。収束させるといっても、いきなり「○○ということで良いですね」とファシリテーターがまとめてしまってはいけません。最終的に参加者全員の合意形成を得るためには、自分の発言が議論においてどのように作用したのかを納得してもらう必要があります。そのために行うべきことは発言を「構造化」することです。
構造化をするために使える手法が「グルーピング」です。ホワイトボートに書いた発言を眺めながら、同じような発言にキーワードをつけてグループ化していくのです。
例えば、売り上げが低迷している製品の問題点について議論していて、以下のような発言が出た場合、「価格」「プロモーション」「市場環境」「営業」といったキーワードでグルーピングできます。
- 値引きをしないと顧客が買ってくれない
- 製品の品質の良さが顧客に伝わっていない
- 競合他社が低価格化を進めている
- 他業界からの新規参入が活発化している
- 営業の人員が不足している
- 製品名がまだ浸透していない
- 市場全体が縮小傾向にある
- 営業が効率的に顧客を訪問できていない
<価格>
- 値引きをしないと顧客が買ってくれない
- 競合他社が低価格化を進めている
<プロモーション>
- 製品の品質の良さが顧客に伝わっていない
- 製品名がまだ浸透していない
<市場環境>
- 他業界からの新規参入が活発化している
- 市場全体が縮小傾向にある
<営業>
- 営業の人員が不足している
- 営業が効率的に顧客を訪問できていない
このようにグルーピングをした後で「皆さんから出された意見は、価格、プロモーション、市場環境、営業といった4つの方向性にまとめられると思いますが、よろしいでしょうか?」といった問い掛けを行い、参加者全員の合意を得ているかどうか確認します。この意味付けのプロセスでしっかりと参加者の合意が得られていないと、次の意思決定のプロセスで「やっぱり○○だと思う」といった新たな意見が出てきてしまい、議論が堂々巡りとなり、いつまでも収束しないという事態に陥ってしまうのです。
意思決定:合理的な判断基準で合意形成する
意味付けのプロセスで、議論の内容を整理した後は、いよいよ意思決定へのプロセスへと移っていきます。意思決定というと一般的には多数決がよく使われる手法ですが、ビジネスの世界で集団による意思決定を行う場合は、できるだけ合理的に判断したいものです。合理的な判断基準で合意形成をする代表的な手法として「メリット・デメリット法」(1)、「ペイオフマトリクス」(2)を紹介します。
1. メリット・デメリット法
選択肢のメリット、デメリットをそれぞれ列挙していき、メリットが一番大きく、デメリットが一番小さい案を選択するというものです。図1の場合は、メリットの数が一番多く、デメリットが少ないC案を選択するということになります。分かりやすい手法なので導入しやすいという利点がありますが、選択肢が多すぎる場合には時間がかかるのであまり向いていないという面もあります。
2.ペイオフマトリックス
選択肢を評価するための判断基準を2つ選び出し、その2軸に基づいて選択肢を評価していく手法です。例えば、「効果の大きさ」と「実行までのスピード」を判断基準とした場合、図2のようなマトリックス表を作成して、各案がどの位置にくるのかを並べていきます。その結果、成果が大きくてすぐに実行できる案を最優先して実行するということになります。図2の場合は、1と5の案を優先的に実行するということになります。マトリックス表を作ることで各案を判断基準に基づいて可視化できるための、優先順位が付けやすくなります。成果の大きさや実行までのスピードを厳密に算出するのは難しい場合もありますので、あまり厳密に考えずに、大、中、小の3段階ぐらいで評価して並べていくとよいでしょう。
上記以外にも、意思決定に使える多くの手法がありますが大切なことは参加者全員が納得して合意することです。「どの案から実行すればよいと思いますか?」と、意思決定を参加者に問い掛けてしまうと、発言力が大きい人の判断基準で意思決定されることつながってしまいます。そうならないためにも、ファシリテーターが、意思決定をするための判断基準を提示して、それに基づきながら合理的に意思決定していくことが大切です。
次へとつなげるまとめ方
無事に意思決定できたからといって、そこで安心してはいけません。最後のまとめ方は、会議の良しあしに大きく影響します。まとめ方として「今日は、○○ということが決まりました」で終わってしまっては、いま一歩です。なぜなら、どんなに良い案が選択されたとしても、それが確実に実行されなければ意味がないからです。
実行を促すために使えるのが「3W」という手法です。3Wとは、「Who」「What」「When」のことで、「誰が、何を、いつまでに行うか」を決めるということです。会議で決定した案を実行していくためには、どんなアクション(What)をする必要があるかを確認できていても、「誰が(Who)」「いつまでに(When)」という点が抜け落ちていては、実行案が途中で頓挫してしまいます。そうならないためにも、3Wに基づいて次回までのアクションを確認するクセを付けるようにしましょう。
どうだった? ファシリテーションについて理解できたかしら?
はい! 会議を仕切るにも技術があったんですね。なんだかうまくいきそうな気がしてきました。早速試してみたいと思います!
今日紹介した以外にもファシリテーションの手法はたくさんあるから、実践しながら自分にあった手法を見つけていくとよいわ。私もたくさんの場数を踏みながら見つけていったわよ。
さすが、レイコ先生!“年の功”ってやつですね!
あら、ヒドイ!! 年齢のことは禁句よ……、グスングスン……。
今回は、「効率的な会議運営」という点を通して、ファシリテーションの基本について解説しました。「会議は時間のムダでできれば参加したくない」と多くの人が思っているのは、会議の運営方法に問題があるからです。会議のかじ取りをできる人(ファシリテーター)が一人いるだけで、非生産的であった会議が、創造的な場へと変わっていくのです。次回はファシリテーションを実践する上で陥りやすい失敗例とその対応方法について解説します。
参考文献
- 「ファシリテーションの教科書」(名倉広明 著、日本能率協会マネジメントセンター)
- 「ファシリテーション入門」(堀公俊 著、日経文庫)
- 「ファシリテーターの道具箱」(森時彦/ファシリテーターの道具研究会 著、ダイヤモンド社)
- 「ファシリテーター養成講座」(森時彦 著、ダイヤモンド社)
Profile
小山新太(こやまあらた)
MPA所属 中小企業診断士。販売促進やマーケティング、コミュニケーションスキルを専門とし、中小企業支援やセミナー講師などを行っている。
MPAについて
「MPA」は総勢70人以上の中小企業診断士の集団です。MPAとは、Mission(使命感を持って)・Passion(情熱的に)・Action(行動する)の頭文字を取ったもので、理念をそのまま名称にしています。「中小零細企業を元気にする!」という強い使命感を持ったメンバーが、中小零細企業とその社長、社員のために情熱を持って接し、しっかりコミュニケーションを取りながら実際に行動しています。
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