検索
連載

ホビーロボから巨大ロボまで――ロボットの簡単制御を実現する「V-Sido CONNECT」再検証「ロボット大国・日本」(14)(1/2 ページ)

水道橋重工が手掛ける搭乗型巨大ロボット「クラタス」の制御ソフトウェアに採用され、大きな話題となった「V-Sido(ブシドー)」。開発者の吉崎航氏は、さらなる使い勝手を追求し、間もなく、シリアルサーボモーターをつなぐだけで簡単にロボットが作れるハードウェア基板「V-Sido CONNECT」を世に送り出そうとしている。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena
V-Sido CONNECT

 この10年で、「ヒューマノイドロボット」を楽しむ人は確実に増えた。近藤科学の「KHR」シリーズやヴイストンの「Robovie」シリーズなど、本格的なロボットキットが何種類も発売されており、一般の人でも安定して動くロボットを作れるようになった。最近では、デアゴスティーニの「週刊 ロビ」に夢中になっている人も多いことだろう。

 だが、そうしたキットではなく、自分だけの“オリジナルロボット”を作るとなると、ハードルは一気に上がる。いや、正確に言うと、サーボモーターをつなげてロボットの形にするだけならやれないことはないだろうが、難しいのは“安定して歩かせること”だ。4足歩行と違って、2足歩行は本質的に不安定である。ちょっとバランスを崩しただけでも、すぐに転んでしまう。


「V-Sido」で2足歩行が簡単に?

 一般的に、ホビーロボットは“パラパラ漫画方式”でロボットを動かす。例えば、歩行の場合、1つ目のポーズは起立状態。2つ目のポーズは右足が上がった状態。そして、3つ目のポーズは右足が前に出た状態といった具合だ。このように、幾つかのポーズをあらかじめ指定しておいて、それを順番通りに再生することで、“動き”を実現する。

 ただし、この作業は非常に面倒で、手間が掛かる。例えば、膝を曲げるだけの簡単な動きでも、実際は、足首、膝、太腿の全ての角度を連動させなければならない。人間は、こうした動きを無意識のうちにやっているが、ロボットには関節が20カ所くらいあり、ポーズごとにそれらの角度を指定する必要がある。さらに、機体の慣性なども考慮して、安定した歩行を実現するには、職人的なスキルも必要となる。

 では、なぜ市販のロボットキットが簡単に歩けるのか。それは、こうした面倒な作業をしてくれたプロによる“完成度の高いモーションデータ”があらかじめ入っているからに他ならない。

KHR-3HV
画像1 近藤科学の2足歩行ロボット「KHR-3HV」の設定画面。関節の数(自由度)は17もある

 とにかく、モーションデータの作成には手間が掛かるわけだが、そんな現状を大きく変えるポテンシャルを持っているのが、本稿で紹介する「V-Sido(ブシドー)」である。V-Sidoは、パラパラ漫画のような決め打ちのモーションではなく、リアルタイムで計算しながらロボットを自動制御する。V-Sido側で、ロボットが倒れないような動きを考えてくれるので、従来のように、手動でモーションを修正する必要がない。

 例えば、歩行スピードを速くしたい場合、やり方としては、歩幅を広くする方法と、脚の回転を速くする方法が考えられるが、実際にやってみると、これがなかなか難しい。歩幅を広くすると歩行が不安定になりやすいし、脚の回転を速くすると前後に転倒しやすくなる。ちゃんと歩けるかどうか、何度もポーズを作り直してテストするしかないのだ。

 しかし、V-Sidoならば、歩幅などのパラメータを幾つか設定してやるだけで、後は自動で各関節の動きを計算してくれる。V-Sido内に物理エンジンを持っており、重心の位置や加速度までシミュレートしているので、歩行は非常に安定している。職人技がなくても、誰でも簡単にロボットを動かせるというわけだ。

搭乗型巨大ロボ「クラタス」にも搭載された「V-Sido」

 V-Sidoは2010年、ネットに投稿された1本の動画で大きな話題となった。筆者も当時、この動画を見て「なんだこれは!」と衝撃を受けたのを覚えている。この動画は、ニコニコ動画で34万回、YouTubeで36万回の再生数を記録しているので、ご覧になった方も多いだろう。

動画1 赤い彗星のMSを市販機ベースでつくってみた

 このV-Sidoは、当時、奈良先端科学技術大学院大学の学生だった吉崎航氏がたった1人で作り上げたものだ。吉崎氏が起業したV-SidoのWebサイトにて、α版のソフトウェアが公開されているので、動画1でも使われていたHPI製の「G-ROBOTS(GR-001)」をもし持っているようなら、ダウンロードして試すことができる。

V-Sidoの吉崎航氏
画像2 V-Sidoの吉崎航氏

 V-Sidoのコンセプトは「どんなロボットでも、簡単に動かせるようにすること」である。本来、身長も体重も違い、関節の構造も異なるロボットであれば、それぞれに専用のモーションを作ってやる必要がある。しかし、そもそも多くの人はロボットに何かやらせたいことがあるからロボットを作るのであって、別に“苦行”のようなモーション作成がやりたいわけではない。ソフトウェアにより自動化できるのであれば、その方がありがたいだろう。

 ロボットのハードウェア的な違いは、V-Sido側で吸収してくれる(サーボモーターの種類などはExcelのシートで設定する)。V-Sidoに対してコマンドを送れば、30cmのロボットでも4mのロボットでも、同じインタフェースで制御できる。実際に、搭乗可能な巨大ロボット「クラタス」(水道橋重工)にも、このV-Sidoが制御ソフトウェアとして搭載されている。

動画2 膝を伸ばした人間らしい歩行も可能だ

 「Googleがロボット関連企業を次々に買収するなど、ロボットが大きな話題になってくると、『ウチもロボットを作ろう!』と言い出す企業が必ず出てくる」と吉崎氏。ロボットのバランスを取る部分をV-Sidoに任せてしまえば、企業はアプリケーション部分の開発に集中でき、これまでよりも短期間でロボット事業への参入が果たせる。実際、既にV-Sidoを商用利用したケースもあるという。

 V-Sidoには、歩行以外にも、さまざまなコマンドが用意されている。その数、50種類以上。例えば、手先の位置を指定するだけで、体全体の姿勢を自動生成するようなことも可能なので、“テーブルの上に置いてあるコップを取る”といった動作も比較的容易に実現できるだろう。

       | 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る