新型スーパーカー「650S」が示すマクラーレンの開発力:マクラーレン・オートモーティブ CTO インタビュー(1/2 ページ)
McLaren Automotive(マクラーレン・オートモーティブ)が、新型スーパーカー「650S」を国内で初披露した。ドライバビリティを向上する「シリンダーカット」や「イナーシャプッシュ」などの新機能の採用に加えて、約1年半で開発を完了した点も注目に値する。会見の内容と、同社CTOのカルロ・デラ・カーサ氏へのインタビューをお送りしよう。
McLaren Automoive(マクラーレン・オートモーティブ)は2014年4月1日、東京都内で会見を開き、同年3月の「ジュネーブモーターショー2014」で世界初公開したばかりの新型スーパーカー「650S」を披露した。650Sは、一般モデルの「クーペ」と、オープンカーになるカブリオレタイプの「スパイダー」が用意されており、国内価格はクーペが3160万円、スパイダーが3400万円。発売時期は2014年春となっている。
650Sは、2011年に発売したマクラーレン・オートモーティブとして初のスーパーカー「12C」と、2013年3月に限定375台で発売した「P1」の技術を集積して開発された。名称である650Sの「650」は、ツインターボチャージャー搭載の排気量3.8l(リットル)V型8気筒エンジン「M838T」の最高出力650ps(473kW)に、「S」はSport(スポーツ)に由来している。
M838Tは12Cにも搭載されているが、650Sでは、ピストンやシリンダーヘッド、排気バルブなど10%近い部品を入れ替えることによって冷却性能を向上。最高出力は12Cの625ps(460kW)から650psに、最大トルクも600Nmから678Nmに高められている。加速時間は、時速0〜100kmが3.0秒、時速0〜200kmが8.4秒で、最高時速は333kmに達する(クーペの場合)。
12Cの上位モデルに位置付けられる650Sだが、P1の技術を導入することで軽量化も実現している。乾燥重量は12Cの1336kgから6kg削減され1330kgとなった。欧州複合モード燃費も、12Cと同じ24.2mpg(11.7l/100km=約8.54km/l)であり、CO2排出量は275g/kmと、12Cの279g/kmから改善されている。
“ドライバビリティ”の改良に注力
会見では、マクラーレン・オートモーティブCTO(最高技術責任者)のCarlo Della Casa(カルロ・デラ・カーサ)氏が登壇し、650Sに採用した技術について説明した。
650Sは、12Cと比べた場合、LEDヘッドランプの採用や、P1をベースにしたスタイリングの変更により25%の部品を新たなものに置き換えている。P1で初めて採用した、直線コースでの速度性能を高める「ドラッグ・リダクション・システム(DRS)」も搭載している。ダウンフォースも12C比で40%向上し、インテーク部の改良はエンジン冷却性能の向上に一役買っている。足回り関係では、コーナーリング時の挙動に関わるスプリングの強度を22%高めており、新設計のダンパーマウントによりNVH(ノイズ、振動、ハーシュネス)を最小限に抑えられる。この他、Pirelli(ピレリ)が、スポーツカー用の「P Zero CORSA」をベースに650S向けに専用開発したタイヤを装備すれば、車両の接地(グリップ)力をさらに高められるという。
カーサ氏が最も力を入れて説明したのが650Sの“ドライバビリティ”である。「マクラーレンと言えばドライバーとの一体感であり、650Sはドライバビリティを高めるためにさまざまな工夫を盛り込んだ」(同氏)という。
このドライバビリティ向上を代表する取り組みが、エンジンと7段変速デュアルクラッチトランスミッション(DCT)から構成されるパワートレインの制御プログラムの最適化である。DCTはクラッチ切り替えによって行う変速の際に、エンジンと変速後のギヤについて、回転数とトルクを同期させる必要がある。この同期のための制御プログラムによって、走行時の快適性や操縦応答性などが変わってくる。650Sでは、「ノーマル」、「スポーツ」、「トラック」という3つの走行モードに対して、それぞれ最適な制御を行えるようにしているのだ。
市街地などを走行する際に用いるノーマルモードでは、「コンフォート・アップシフト」という制御を行う。同期時の不快感につながるエンジン回転数の変動が起こらないように、エンジン燃焼を精密に制御しながら、より素早く変速を完了させる。
高速度路などで使うスポーツモードでは、ノーマルモードよりも30%早く同期のための準備段階に入るので、高い応答性を感じることができる。また、同期のための準備段階に入った際に、エンジン回転数が2500rpm以上、アクセルペダルの踏み込み量が70%以上の条件で作動する「シリンダーカット」により、8本のシリンダーのうち2本の動作を瞬間的に停止してから再点火することにより、迫力ある排気音を体感できるという。
スポーツモードの変速時における回転数/トルク/加速度の変化。エンジン回転数が2500rpm以上、アクセルペダルの踏み込み量が70%以上の条件で「シリンダーカット」が作動する(クリックで拡大) 出典:マクラーレン・オートモーティブ
レースコースで用いるトラックモードは、シリンダーカットよりもさらにアグレッシブな「イナーシャプッシュ」が用意されている。作動条件は、エンジン回転数が5000rpm以上、アクセルペダルの踏み込み量が60%以上。「エンジン回転数が5000rpm以上で走行するのが当たり前のレースコースでは、ほとんどの場面でイナーシャプッシュが利用できる」(カーサ氏)。
イナーシャプッシュによる変速時には、変速後のギヤと同期させるためにエンジン回転数を抑制せず、あえて高い状態を維持する。そこでクラッチを切り替えると「オーバークランピング」が発生する。オーバークランピングによってエンジン回転数は落ちるが、変速後のギヤとつながるクラッチに掛かるトルクがエンジントルクを上回った状態になる。このオーバークランピングの際に加速力が上昇するので、変速中でも加速力が落ちないというわけだ。
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