三菱電機 名古屋製作所、FA機器快進撃の舞台裏:FAインタビュー(1/3 ページ)
好調を持続する三菱電機のFA機器事業。その成長を支える主力事業所「名古屋製作所」では新たな生産棟を5月に本格稼働させる。分工場の生産性向上に向けた投資も加速させ、成長を「もう一段上に」加速させる方針だ。競争環境が厳しくなる中、成長を続ける秘訣は何があるのだろうか。名古屋製作所 所長の山本雅之氏に話を聞いた。
三菱電機のFA事業が好調を持続している。2014年3月期(2013年度)の第3四半期累計(2013年4〜12月)の実績では、FA機器と自動車機器を合わせた産業メカトロニクス部門で、売上高が前年同期13.9%増の7783億4200万円、営業利益は同41.5%増の713億3800万円と、全部門で最大の利益を稼ぎ出している。
シーケンサ、サーボ、インバータ、NC、三相モータ、産業用ロボット、放電加工機、レーザー加工機……。三菱電機がFA機器として扱う製品は多岐にわたる。三菱電機ではこれらの製品を主に4つの製作所で設計・開発・生産しているが、その中核を担うのが愛知県名古屋市にある名古屋製作所だ。
名古屋製作所では、新たに新生産棟を建設し2014年5月から本格稼働させる。また分工場である可児工場(岐阜県可児市)、新城工場(愛知県新城市)でも新たな設備を導入し、生産性向上を図るという。成長を続ける三菱電機のFA事業の強みはどこにあるのか。名古屋製作所の所長を務める山本雅之氏に話を聞いた。
幅広い生産分野を扱う三菱電機の真価
MONOist 三菱電機のFA機器の強みをどのように考えていますか。
山本氏 製造機械メーカーは専業メーカーが多く、三菱電機のように幅広い製品群を保有している企業はない。「PLC(シーケンサ)が強くてもロボットを扱っていない」や「サーボ、NCなどの機器はあっても加工機(放電・レーザー)はやっていない」など、国内外を見渡しても全面的にぶつかる企業はない。それぞれの製品分野で競合に勝てるモノづくりを進める一方で、製品群の幅広さがわれわれの強みとなっている。
従来はこうした幅広い製品を持ちながら、それぞれのコンポーネント単体でのビジネスが主で、せっかくの総合力を生かす発想はあまりなかった。実際に当社が展開する製品群は、それぞれの分野で高いシェアを維持しており、業界トップシェアを獲得している製品群も多かったことも要因としてあった。
しかし徐々に、個々の製品だけでは、顧客企業の競争力を大きく高めることが難しくなってきた。厳しいグローバル競争にさらされている顧客企業からは、より短期間で抜本的な生産性向上を求めるようになってきていた。これらに対し個々の製品の性能や機能の向上だけで、全面的に顧客要望に応えていくことが難しい状況だった。
これらの流れの中で生み出したのが「e-F@ctory(イーファクトリー)」と「iQ Platform(アイキュープラットフォーム)」だ。
e-F@ctoryは、工場の中のさまざまな機器をネットワークで接続して稼働状況や作業状況などを記録して“見える化”し、顧客のTCO(Total Cost of Ownership)削減に貢献するシステムのことだ。一方のiQ Platformはこれらの土台となるプラットフォームで、ハードウェアとソフトウェアを共通化し、環境の統合や機器の統合などを実現する仕組みだ。これらの総合的な提案に積極的に取り組むことで、個々の製品としての差別化に加えた、新たな価値の提供を目指している。
個々の製品では真の顧客ニーズを実現できない
MONOist 総合的な提案についての顧客からの反応はいかがですか。
山本 e-F@ctoryについては、自動車メーカーや電機メーカーなど幅広い業態でグローバルでの採用が増えている。現在300社以上に採用いただいている。採用拠点数ということになると、もっと多くの実績がある。もともとは自動車メーカーからの要望が高く、自動車メーカーと自動車部品メーカーの導入が多いが、電機や食品関連企業も増えてきている。また、自社工場への導入を行い、多くの成果を残していることも特徴だ。
e-F@ctoryは、もともと「FA機器と、ERP(Enterprise Resource Planning、統合基幹業務)システムなどの基幹系システムをつなぐ、うまい方法はないか」という要望を受けて開発した。生産系のシステムと基幹系のシステムの連携はPCで行うとさまざまな問題が発生する。そこでシーケンサを使ってつなげるというニーズが高まった。最初に、シーケンサとMES(Manufacturing Execution System、生産実行システム)を接続するMESインタフェースを2006年に発売した。
同システムを利用することで、現場の製造実績データ、品質データが、製品1つ1つにおいて把握できる。そのため「どういう工程でどういうロットが品質問題を起こしたのか」という追跡・分析などに利用することが可能だ。また、設備ごとの電力監視や省エネ対策などにも活用できる。安全性や生産性の向上などにも活用できる。
例えば、当社のサーボモーター工場では同システムが約200台稼働し、常時生産データを把握できるようにしている。上位のコンピュータシステムからその日の生産計画や段取り換えなどの指示を出したり、現場側ではサーボモータ1つ1つの製造状況などのデータを把握して改善に役立てる取り組みなどを行っている。
一方でiQ Platformは、当社が展開するシーケンサやロボットなどの共通基盤をプラットフォーム化したもの。共通基盤を構築することで開発環境を統合でき、開発コストを低減できる他、互換性が保持できるため以前に購入した機器の活用などが可能となり、機器導入コストの低減につながる。また各種データの連携なども可能であるため、さまざまなメリットを創出できる。
この開発には名古屋製作所という存在が大きな役割を果たした。最近では、設計開発部門を本社に集約し、工場では生産を行うだけ、という企業も多くなっているが、名古屋製作所は生産機能だけでなく設計や開発などを含めたモノづくりの総合環境を保有している。シーケンサやサーボモーター、NCなどこれまで部分最適で製品開発を行ってきたものの、以前からエンジニアは全て名古屋製作所内にいた。これらのエンジニアが連携できるような仕組みを作ったことで、iQ Platformの開発へとつながった。こうしたことが行えたのは当社独自のことだといえる。
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