バーチャルな世界をより現実へ近付ける「Digimat」最新版と今後:CAEニュース
複数の材料で構成された部品や複合材料などをマルチスケール解析するためのプラットフォーム「Digimat」の最新版は、樹脂流動解析ソフトウェアの解析結果をベースに、構造解析ソフトウェアが利用できる。バーチャルな材料試験を半自動化するモジュールも登場予定だ。
エムエスシーソフトウェア(以下、MSC)は、同社の子会社 e-Xstream engineering(以下、e-Xstream)の「Digimat」の最新版や今後の開発予定を明らかにした。MSCは2012年10月にe-Xstreamを買収し子会社化している。
Digimatは、複数の材料で構成された部品や複合材料などをマルチスケールモデリングするためのプラットフォームであり、複数のモジュールで構成される。同プラットフォームは、材料開発や構造解析に携わる技術者を対象としている。マルチスケール解析とは、部品自身の構造(マクロスケール)とそれを構成する材料自身の構造(マイクロスケール)など、スケールが大きく異なる構造同士を連成させ物性や挙動を解析する手法だ。例えば繊維強化材料を採用した樹脂部品なら、材料の微小構造特性まで考慮することで、強度解析と実現象との合致精度を高めることが可能だ。
MSCの材料ライフサイクル管理システム「MaterialCenter」も、Digimatのデータベースや材料特性の計算など利用できるよう統合を進めている。
2014年1月16日に発表したバージョン5.0.1では、新モジュール「Digimat-RP」を追加。樹脂流動解析ソフトウェアの「Moldflow」「Moldex3D」「Sigmasoft」「3D Timon」の解析結果をベースに、構造解析ソフトウェアの「Marc」「MSC Nastran」「Abaqus」「Ansys」「LS-Dyna」を用いた解析が可能だ。また従来のバージョンは「マルチスケール解析の手順が複雑で使いづらい」というユーザーの声もあり、一部の作業を自動化するなどしてシンプルな操作の実現を目指したという。
他、Digimatを構成する既存モジュールは、下記。
- Digimat-MF:平均場均質化法による非線形構造解析
- Digimat-FE:RVE(代表体積要素)による有限要素モデリングベースの均質化
- Digimat-CAE:マルチスケール解析用のインタフェース(樹脂流動解析ツールや構造解析ツールとの連携)
- Digimat-MAP:シェル・ソリッド要素の解析結果マッピング
- Digimat-MX:材料データベース(実験データや材料ライブラリ)共有、リバースエンジニアリング
- Digimat-HC:ハニカムコアサンドイッチ構造のモデリング
バージョン5.0.1では、Digimat-MF、Digimat-MX、Digimat-CAEの機能強化を図った。Digimat-CAEではAbaqusの連成解析の際の異方性熱伝導率の適用と、Marcの連成解析の際の熱/構造連成解析が可能となった。
2014年6月リリース予定のバージョン5.1.1は、Digimat-FEにおける形状作成のパフォーマンス向上、Digimat-FEのMarcインタフェース追加を予定している。続いて、2014年12月リリース予定のバージョン5.2.1では、仮想材料試験モジュール「Digimat-VA」を追加予定だ。従来、試験片評価をシミュレーションに置き換えようとした場合は、ユーザー自身で解析モデルを用意して有限要素法解析をしており、非常に手間が掛かっていた。このモジュールでは、モデル作成から有限要素法解析までを半自動化することでユーザーの作業負荷を減らせるという。
「Digimatのようなツールが登場するまで、設計する際には決められた材料から選択し採用するしかなかった。材料特性も設計変数とすれば、無限の可能性が広がる。『複合材料』といえば強度面の話になりがちだが、熱や電磁場、音などさまざまな問題の解決にもつながる。車体であれば、複合材料を採用することでノイズ低減させるなども可能だろう。車体以外の部品でも、従来式の材料選定にとらわれることがなくなる」(MSC日本法人 代表取締役社長 加藤毅彦氏)。
電磁場もDigimatの材料特性に考慮可能かどうかについて、e-Xstreamの創設者/CEOで、米MSCのチーフマテリアルストラテジストのRoger Assaker氏は「現状は対応していないが、将来、顧客の要望次第で対応する可能性はあるだろう」という。対して加藤氏は、「日本ユーザーからの要望は多いはずなので、日本法人から率先して情報発信し、開発部隊に動いてもらえるようお願いしていきたい」と述べている。
日本国内では主に大手自動車メーカー、材料メーカー、電機メーカーなどで採用実績がある。最近は、材料関係やマルチスケール解析の引き合いが増えており、セミナーでのユーザーの注目度も高いということだ。
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