QNXが組み込みソフト基盤を刷新、ディスプレイオーディオに最適な開発キットも:車載ソフトウェア
QNXソフトウェアシステムズは、組み込み機器向けソフトウェアプラットフォームの最新バージョン「QNX SDP 6.6」と、WebkitベースのHTML5レンダリングエンジンやスマートフォンとのマルチメディア連携機能を利用できる開発キット「QNX SDK for Apps and Media 1.0」を発表した。同キットは、ディスプレイオーディオの開発に最適だという。
QNXソフトウェアシステムズ(以下、QNX)は2014年3月6日、東京都内で会見を開き、組み込み機器向けソフトウェアプラットフォーム「QNX SDP(Software Development Platforom)」の新バージョンとなる「QNX SDP 6.6」について説明した。
QNX SDPは、リアルタイムOSの「QNX Neutrino」を中核とした、組み込み機器向けのソフトウェア開発プラットフォームだ。今回のQNX SDP 6.6では、セキュリティ機能の拡張、グラフィックス制御の強化、主にモバイル機器向けを主眼とした電力管理機能の追加が行われた。
セキュリティ機能の拡張では、よりきめ細かにシステム権限レベルを制御できるようにした。プロセスが実行できる操作を決定およびシステムコールレベルまで細かく制御できるので、システム全体にアクセスできるルート権限を各プロセスに付与する必要がなくなる。また、アプリケーションのライフサイクル管理によるアクセス制御や、危険なコードからシステムを守る保護機能の強化、新たな暗号化機能の追加なども盛り込まれている。
グラフィックス制御の強化では、HTML5やOpenGL ES、Qtなどの異なるアーキテクチャで作成したアプリケーションやグラフィックスコンポーネントなどをシームレスに統合する「グラフィカル コンポジション マネージャ」が追加された。これによって、より高度な機能を持ったユーザーインタフェース(UI)を開発できるようになるという。また、タッチパネルのマルチタッチ入力制御やビデオキャプチャー、OpenWF Display APIに基づく新しいドライバの導入なども行われている。
モバイル機器向けの電力管理機能については、システムがアイドル状態の際にクロックのティック(刻み)を緩和する「ティレックスモード」を導入した。従来のティックは1msだったが、このタイムスパンを長くすれば消費電力を抑えやすくなるというわけだ。この他、非リアルタイムのアプリケーション向けに「トレラントタイマー」と「レイジー割り込み」を用意した。例えば、トレラントタイマーはUI応答タイマー、レイジー割り込みはキーボードの割り込みイベントなどに利用できる。加えて、ARMのアプリケーションプロセッサコア「Cortex-Aシリーズ」のDVFS(動的電圧周波数制御)にも対応した。DVFSは、負荷に応じてプロセッサコアの電圧と周波数を動的に制御する技術である。
QNXソフトウェアシステムズでアジア太平洋地区自動車担当のビジネスデベロップメントマネージャを務める中鉢善樹氏は、「最新の組み込み機器はインターネット接続が必須機能になりつつある。セキュリティ機能の拡張は、このインターネット接続のトレンドに対応するためのものだ。また、グラフィカルなUIがさまざまな組み込み機器に搭載されるようになっていることもあって、グラフィックス制御も強化した。モバイル機器向けの電力管理機能には、親会社のBlackBerryがスマートフォン開発で培った技術が反映されている」と語る。
製品ポートフォリオは3つに
QNX SDPは、民生用機器から産業用機器、航空機や船舶など、組み込み機器全般で利用できるソフトウェアプラットフォームだ。一方でQNXは、カーナビゲーションシステムやディスプレイオーディオ、デジタルクラスタといった車載情報機器向けには「QNX CAR Platform for Infotainment」を展開している。
QNXは、今回のQNX SDP 6.6に併せて、QNX SDPとQNX CAR Platform for Infotainmentの中間に位置する開発キットも発表した。より複雑なUIを備える組み込み機器向けの「QNX SDK for Apps and Media 1.0」である。
QNX SDK for Apps and Media 1.0を使えば、HTML5をサポートするWebkitベースのレンダリングエンジンと、スマートフォンの映像データや音楽データを活用するための連携機能を利用できるようになる。これらの機能は、従来はQNX CAR Platform for Infotainmentでしか利用できなかった。
Webkitベースのレンダリングエンジンを使えば、組み込み機器にさらにグラフィカルなUIを導入できるとともに、HTML5ベースのアプリケーションも組み込めるようになる。スマートフォンとの連携機能では、メディアの検出と同期、メタデータ処理といったマルチメディア管理を行える。接続可能なスマートフォンプラットフォームは、iOS、Android、BlackBerryである。
QNX SDK for Apps and Media 1.0は、QNX SDP 6.6にアドオンする開発キットという位置付けである。QNX SDP 6.6の発表とほぼ同時期にバージョン2.1にアップデートされたQNX CAR Platform for Infotainmentには、QNX SDK for Apps and Media 1.0の機能が全て含まれており、この他にカーナビゲーション用のAPIやAndroidアプリの利用環境、MirrorLinkによるスマートフォン連携といったハイエンドの車載情報機器の開発に必要な機能を備えている。
UIに用いるグラフィックス機能についても、QNX SDP 6.6ではOpenGL ESが利用可能だが、QNX SDK for Apps and Media 1.0ではこれにHTML5が加わり、QNX CAR Platform for InfotainmentでQtに対応するというように、機能が追加されるようになっている。
中鉢氏は、「それぞれの用途を車載情報機器分野で挙げれば、ディスプレイ表示をあまり使わないテレマティクス機器はQNX SDP 6.6、ディスプレイオーディオであればQNX SDK for Apps and Media 1.0、カーナビゲーションが可能な高機能の車載情報機器はQNX CAR Platform for Infotainmentが最適だろう」と述べている。
デジタルクラスタとカーナビゲーションの連携機能開発が容易
会見では、2014年1月開催の「2014 International CES」で披露した、デジタルクラスタとカーナビゲーションの連携機能を披露した。デジタルクラスタ側を開発したのは、UI開発ツールベンダーのエイチアイ。カーナビゲーションは、QNX CAR Platform for Infotainmentの参照環境にナビゲーションエンジンを最適化して組み込んだものを用いた。ナビゲーションエンジンは、光庭ナビ アンド データ(光庭)とアイシン・エイ・ダブリュ(アイシンAW)の2種類を使用した。
デジタルクラスタとカーナビゲーションの連携機能はQNXが指定したAPIを介して行われている。このため、カーナビゲーション側で光庭とアイシンAWのナビゲーションエンジンを入れ替えても、同様の連携機能が利用できた。「この連携機能の開発では、デジタルクラスタを担当したエイチアイと、ナビゲーションエンジンの最適化を行った光庭やアイシンAWとの間ですり合わせを行う必要は一切なく、開発期間は数カ月で済んだ」(中鉢氏)という。
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