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いまさら聞けない産業用ロボット入門〔前編〕産業用機器 基礎解説(2/4 ページ)

日本は「ロボット大国」とも呼ばれていますが、その根幹を支えているのが「産業用ロボット」です。それは世界の産業用ロボット市場で圧倒的に日本企業がシェアを握っているからです。では、この産業用ロボットについてあなたはどれくらい知っていますか? 今やあらゆるモノの製造に欠かせない産業用ロボットの本質と基礎を解説します。

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どんな形のロボットが使われているか?

 「マニピュレーティングロボット」の主な構造型式とその出荷実績を図3に示します。

 ロボットメーカーから製品として出荷されているロボットの70%は垂直関節型でその大多数は3次元空間作業に最低限必要な6自由度機構となっています。垂直関節型ロボットは他の構造型式に比べ、機械制御面で高い技術力が必要で、日本が得意とする代表的なロボットです。

 人の腕のような形状で器用に使えるのですが、直交型のようにがっちりとしたシンプルなガイドで支えられた構造に比べて、機械剛性が低く絶対位置精度はあまり良くありません。そのため、高速に動かすとオーバーシュートしたり、振動が起きたり、移動目標位置がずれたりする可能性があります。機構的な工夫と制御上の補償を駆使して、柔らかな構造の機械をきちっと制御するという日本の技術が生かされています。

 水平関節型ロボットは、1980年代初頭に山梨大学の牧野洋教授(当時)が自動組み立て機械の研究から到達したSCARA(Selective Compliance Assembly Robot Arm)ロボットが原型です。上下方向の剛性が高く横方向の剛性が低い構造は、上下方向の組み付け作業に有効である、というのがもともとの考え方です。最近の水平関節型ロボットは、どちらかというと水平方向の移動が高速でピックアンドプレースに向くロボットとして製品企画されることも多くなりました。いずれにせよ「用途に特化して機能性能・コストパフォーマンスを追求して作り込まれたロボットは、社会価値が明確である」という好例です。

 パラレルリンク型は水平上下の合成速度をさらに上げることができるピックアンドプレースに向く特化機構です。

 直交型はロボット製品の統計上では年間1万台ほどの市場規模ですが、単軸直動ユニットの組み合わせで制御も簡単なので、統計には表れない多くの自作ロボットが製造現場で製作され、生産機械の一部として活躍しています。もともとシンプルな移動機構だけで済むような用途に使われるのですが、垂直関節型や水平関節型ロボットと組み合わせてコンパクトな生産設備に仕上げるためにも利用されます。

図3:製造業用ロボットのタイプと出荷規模
図3:製造業用ロボットのタイプと出荷規模(クリックで拡大)

どんな分野でどんな作業に使われているのか?

 世界中のロボット産業に関する統計は、国際ロボット連盟(IFR、International Federation of Robotics)からWorld Roboticsという統計年鑑が出版されています。IFRで、各国のロボット産業を掌握している業界団体からデータを集計したものです。

 World Robotics 2013によると2012年に世界で出荷されたロボットの総台数は15万9346台です。先ほどのJARAのデータで2012年の日本製ロボットの出荷台数は9万5551台でしたので、日本製ロボットのシェアは約60%だということになります。以前よりはシェアが下がっていますが、まだ圧倒的なロボット供給大国だといえるでしょう。

 2012年の利用分野構成を図4に示します。

図4:世界の産業用ロボットの2012年利用分野
図4:世界の産業用ロボットの2012年利用分野(クリックで拡大)

 利用分野では先ほどのJARAの国内向け出荷と同様で、世界データでも自動車と電子電気機械分野が主な利用分野です。ただし傾向としては、自動車分野の比率が下がり、電子電気機械分野をはじめ他の分野の利用比率が拡大する傾向にあります。世界市場規模全体は拡大傾向にありますので、自動車分野が減っているというわけではなく利用分野が拡大しているということを示します。これは、ロボット産業にとっては良いことだといえます。

 一方でロボットの適用分野にも特徴が見えます。2012年の適用作業別構成を図5に示します。日本はロボット応用分野でも先進国で、世界に先駆けて適用分野拡大に寄与しているといえるかもしれません。

 適用作業としては溶接とハンドリングが突出しています。自動車の溶接はもはやロボット化が常識となっています。ハンドリングは移載や自動機へのワークのローダ/アンローダなど、自動化としてはごく基本的な使い方です。最近、組み立て・加工などの付加価値の高い作業への適用が増え始めています。溶接も一種の組み立てのための加工用途です。ロボットに本来期待される作業はこのような付加価値の高い複合作業ですので、産業用ロボットの本来の活躍の場はまだはこれから本格化するものと思います。

図5:世界の産業用ロボットの2012適用作業
図5:世界の産業用ロボットの2012適用作業(クリックで拡大)

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