日本の“安定した基盤”がモノづくりに与える意味とは?:小寺信良が見たモノづくりの現場(11)(3/5 ページ)
「小寺信良が見たモノづくりの現場」での取材から得た「気付き」から「ニッポンのモノづくりの強み」を2回にわたってまとめる本企画。今回は「なぜ日本で作る意味があるのか」についてを掘り下げる。
あらゆるものを自作してコストダウン
家電製品も含め、現代の電機製品は加速度的に複雑になってきている。その一方で、コモディティ化した製品には改良の余地が少なく、「もはやどこで作っても同じ」とまで言われるようになった。それならば当然、価格競争になる。人手で製造するならば、人件費の安価な国で作れば安くでき、そのまま海外流出ということにつながる流れだ。
だがその流れに逆行してみせているのが、日本の家電メーカーだ。コモディティ化した製品の中でも「ブランドをしっかり立てて高級モデルとして販売するということ」を実現できている。そして、それがやれるのは、全ての部材を内製できる体制になっているからだ。
日立アプライアンス多賀事業所(白物家電を人手で1個ずつ作る日立――国内工場でなぜ)は、国内有数の家電製造拠点である。日立のDNAともいえるのが、あらゆるものを自分たちで作るというポリシーだ。1つのラインで製造できないパーツは、工場内の別の部署で作って持ってくる。この融通力こそが、総合巨大工場の強みである。
人件費の高さは、生産設備や設計の工夫により多くのプロセスを自動化することで、人の手がかかる時間を短縮し対応する。輸出向け高級掃除機の組み立てに1つ3分しかかからなければ、海外工場で仮に人件費が5分の1だったとしても、1つに15分以上かけていると効率は日本の方が高いということになる。操業時間が同じなら、日本の方が5倍多くできる。そう考えると、実は人件費など大した問題ではないことになる。
「選ばれる要素」が必要な時代に
多賀工場よりも規模は小さいが、三菱電機ホーム機器(現場の発想を即決実行! 三菱電機ホーム機器が高級白物家電で連勝する秘密)でも同様にあらゆるものを内製している。掃除機にしても、モーターまで内製しているのは、日立と三菱だけだ。ここでは以前、電源コードを外注していたが、それさえも自社工場内で生産するようになった。
決め手はやはり、コストだという。こうした汎用部品であっても、周辺の町工場に発注するより、もはや自社内で作った方が安くなった。そこまでメーカーの工場の中身は、高度に合理化されているということである。
このような手法は、大手企業の工場周辺に存在する、いわゆる町工場のような産業を圧迫するという批判もあるだろう。だが町工場を生かすために、あえて非合理的な仕組みを残せというのは、むちゃというものだ。多くの家電メーカーの工場が自社の存亡をかけて合理化を進め、時には「閉鎖」といった厳しい判断が下るケースにもさらされている。このような流れの中では、町工場といえども、「選ばれる要素」が必要になってきている。
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