6W2H抜きで生まれたハンパな? キッチンマット:甚さんの「コミュニケプレゼン」大特訓(4)(2/2 ページ)
今回はキッチンマットを分析だ! キッチンをよく使う女性ならどういうマットが欲しいか、エリカちゃんと一緒に6W2Hで考えよう。
これは中途半端なキッチンマットですね!?
図1は、多くの家庭のキッチンにある床マットです。「フロアマット」と呼ぶ場合も多いと思います。
その1つが定番のカーペット状のマットで、パイル生地でできています。図中に示す商品の定価は1500円です。
一方、あえて説明のために宙に浮いている床マットは、塩ビ(塩化ビニール)製の透明床マットです。その商品の定価は、1万4800円です。
さて、冴えまくっているエリカちゃんよ! どっちの床マットを買う?
当然、カーペットの方でしょう! 考える必要はないですね。第一、値段が違いすぎますし、塩ビの透明マットなんて殺風景だし、女子として「選ぶ楽しみ」もないですし。
それでは、エリカちゃんに、2商品を詳しく評価してもらった結果を以下に示します。
- まず、定価が比較にならないほど違いがある。
- 塩ビ製は10倍の価値があるなら理解できるが、その価値が見当たらない。
- カーペット状マットは、女性としてデザインを選ぶ楽しみがある。
- カーペット状マットは、飛散した水滴や洗剤を吸収してくれる(図2参照)。
- カーペット状マットは、飛散した油を吸収してくれる(図2参照)。
- 上記4、5で汚れれば、洗濯して何度も使える。
- 塩ビ製は、水滴や油を料理後や後片付けの度に、床マットを拭く必要がある。
- 塩ビは、飛散した水滴や油で、滑ることが想定され、足元が危ない。
- カーペット状マットは、底冷え防止になる。塩ビは期待できない。
- カーペット状マットは、皿やコップの落下の際、衝撃を吸収してくれる。塩ビのそれは期待できない。
- カーペット状マットは、廃棄時は、普通ゴミに出せる。塩ビは、粗大ゴミの扱いか、プラスチックゴミであり、環境保全に不利である。
- 物流上、カーペット状マットは軽いが、塩ビは重い。
塩ビの方は全くお話になりません! キッチンをよく使う女性を無視したマーケティング、商品企画じゃないですか! どうせ、うちの職場の管理職みたいなオッサンが企画したんでしょう? フン!
そんじゃ、ここまで女性の心を把握できた良君! キッチン用床マットの商品を企画してみろ。つまり6W2Hを作成しろってことだぁ!
合点承知! え〜〜と、これでどうでしょうか、エリカさま〜。
えっ? ちょっと、どうしてこうなるの? さっき私が評価した12項目、ちゃんと見てました?
僕には僕の考え方があるさ。だいたいさー、まず床が汚れなきゃいいんでしょー。それに、これなら水や油をはじくから、汚れても雑巾でひとふきすればいい。楽でしょ?
はあ? 毎回毎回拭かせる気ですか? しかも、かがんだ姿勢で? 国木田さんって、自分で料理やお皿洗い、洗濯もしたことないでしょ?
そういうことは、いつもおふくろがやってくれてるし、毎日仕事や勉強で忙しいしぃー。
イラァッ! つまりこれは、そんな勝手な男が考えた、勝手な商品ということですね!!
もっ! 申し訳ありません、エリカさまぁ!
エリカちゃん、きっとこいつは商品開発には向いてねぇのよ。第一、センスがねぇときたもんだ。そんじゃ、オレサマがエリカちゃんの要望するマットの6W2Hを作成するぜぃ! これでどうだ!(表2)
そうそう、やっぱりデザインも大事。それに、水は吸収してくれた方がいいのよね。さすが甚さん! キッチンで働く女性の気持ちを的確に反映しているわ。
ううう……。しくしく。
表1と表2をじっくり時間をかけて比較してみてください。特に、グレーの部分に注目です。いつものように「料理を設計、料理人を設計者」にたとえて説明すれば、表1は(エリカちゃんの視点から見たら)「2流、3流の料理人」、表2は「一流の料理人」となるでしょう。さらに、ガラケーとスマホを当てはめてみて考えてみてください。
そして、今回の、『劇的ビフォーアフター』に登場する建築士の行動を思い出してください。注目すべきは、番組の初めの部分です。毎回登場する建築士は、お客さまとのラポールを繰り返し、6W2Hを練っていることが分かります。お客さまの真の要望が把握できない建築士が登場したら、先ほどの塩ビ製キッチンマットのような番組にしてしまうでしょう。
6W2Hは、技術者としてお客さまとのコミュニケーションを円滑にする道具であり、設計者としての重要な設計ツールであることが、料理人や建築士から学ぶことができました。皆さんもまずは、お客さまの声を6W2Hにまとめることから始めてください。これが設計者の修行です。
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また次回お会いしましょう。
Profile
國井 良昌(くにい よしまさ)
技術士(機械部門:機械設計/設計工学)。日本技術士会 機械部会、埼玉県技術士。横浜国立大学 大学院工学研究院 非常勤講師。首都大学東京 大学院理工学研究科 非常勤講師。
1978年、横浜国立大学 工学部 機械工学科卒業。日立および、富士ゼロックスの高速レーザプリンタの設計に従事。富士ゼロックスでは、設計プロセス改革や設計審査長も務めた。1999年より、國井技術士設計事務所として、設計コンサルタント、セミナー講師、大学非常勤講師としても活躍中。「ついてきなぁ!加工知識と設計見積り力で『即戦力』」(日刊工業新聞社)と「ついてきなぁ! 『設計書ワザ』で勝負する技術者となれ!」(日刊工業新聞社)をはじめとする多数の書籍を執筆。
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