日立、鉄道車両の英国生産に向けグローバルPLMを採用:製造IT導入事例
日立製作所 交通システム社は、鉄道車両のグローバル開発の統合プラットフォームとして「PTC Windchill」をベースとするPLMソリューションを採用したことを発表した。同社は英国都市間高速鉄道計画の鉄道車両を受注し、英国で鉄道車両を生産することを明らかにしている。
日立製作所は、鉄道車両、運行管理、信号システム、鉄道設備の設計、製造、保守サービスなどを一貫して提供する総合鉄道システムインテグレーターで、国内はもちろん、海外への鉄道システムの受注拡大を目指している。
これらの流れの中、2012年7月には英国都市間高速鉄道計画(IEP:Intercity Express Programme)における鉄道車両を受注。2013年7月に決まった追加受注分も合わせると合計866台の車両を製造し提供することになる。これに伴い同社では、英国・北東イングランドのダーラム州ニュートン・エイクリフに鉄道車両の新工場を建設する。同拠点は、日立製作所の鉄道車両工場としては、初の海外工場になるという。
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グローバルでの統合製造プラットフォームの必要性
日立製作所では、従来山口県下松市の笠戸事業所を鉄道車両生産の中心拠点とし、熟練工を多く抱えることによる高い生産技術で、鉄道車両の受注を進めてきた。しかし、グローバル展開を広げ英国での新生産拠点を立ち上げるに当たり、日本と同様の生産方式を取ることが難しいという判断から、生産革新活動を推進。その一環として鉄道車両の設計・開発の統合プラットフォームの導入の検討を進めたという。
2013年12月11日に都内で開催された「PTC Live Tech Forum 2013 東京」で「鉄道事業、世界のマザー工場に向けたPLM導入事例」をテーマに講演した日立製作所 交通システム社 笠戸事業所 業務改革推進室 主任技師の角廣崇氏は「グローバル化を進め、海外からの鉄道受注を増やそうという中で、“鉄道の新しい作り方”を確立していく必要があった。製造方式を標準化し、日本と英国の工場が連携を取れるようにするためにも、基盤となるシステムは一気通貫のものが求められる」と話す。
現場のオペレーション改革を優先
新たな生産体制構築に向け、まずは生産方法の抜本的な改善を推進。例えば、鉄道車両を生産するのに車体や台車、車室内、車外などの部分に分けてセル生産を行う方式に変更した。さらに従来は車両に逐次組み付けていたのを、車外での組み立てを増やし、一定規模に組み上げたものを車両に組み付ける方式を採用するなど、生産手法の見直しを図った。これらの現場のオペレーション改革を推進した後で、これらを踏まえてシステム化を図ったという。
同社の鉄道車両の設計・開発・生産に関する情報システムは、設計や調達、品質保証などそれぞれの工程でデータベースが散在している状況だった。さらにBOM(部品表、Bills of Materials)をベースとしたシステムがなく、部品の親子関係は管理できていなかったという。それぞれのデータベースの登録ルールや作業指示書の定義など、標準化できる仕組みが存在していない状態だった。
設計BOMと製造BOMを切り分ける
そこでBOM情報やCAD情報などを一元管理するPLMツールとしてPTCの「Windchill」の採用を、2012年4月に決定した。最終候補として4つのソリューションから選んだ形になったが「候補の中で設計BOMと製造BOMを切り分けて管理できるのがWindchillしかなかったことが決め手になった。鉄道車両は1つで10万点以上の部品となる。設計者がいくら考えても製造現場での思ったように作れないことがある。そのため製造側で構成を変えられる仕組みが必要だった」と角廣氏は話す。
さらに「基本的にPLMは量産を前提に考えて作られており、1品ものの受注製品である重工系製品にとっては相いれない部分も多い。そこをできる限りカスタマイズせずに使えるようにするかというバランスが最も難しいところだった」と角廣氏は語る。
結果的には、システム構成として、Windchillそのものはほぼ標準で使用し、足りない機能はアドオンの形で外部のシステムとして連携させる形を取ったという。またBOMの管理についてもセル生産におけるモジュラーを管理する機種BOMや車種の管理をする製品BOMに加えて、「作番BOM」を設置した。「鉄道車両は同じ車種でも製造時期によっては仕様が大きく変わることがある。これらを管理できる仕組みとして作番を作った。これらのBOMの定義を徹底したことが後々重要になる」と角廣氏は強調する。
これらを経て2012年12月にWindchillが稼働。標準仕様を主に活用したため、短期間での立ち上げに成功した。この他、3次元CADの導入、レガシーデータの作り込みなども同時並行で行い、鉄道車両のグローバルでの設計・開発体制構築を進めているという。角廣氏は「稼働はしたが本格的な活用はまだまだこれから。さらに使い込んでいきたい」と話している。
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