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ソニーのレンズスタイルカメラはなぜ生まれたのか小寺信良が見た革新製品の舞台裏(1)(2/3 ページ)

新たなアイデアで注目を集めたソニーの“レンズだけカメラ”。そのアイデアはどこから生まれ、そしてそれを形にするにはどんな苦労があったのだろうか。革新製品の生まれた舞台裏を小寺信良氏が伝える。

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なぜこの形なのか

小寺 ただ、実質的にはベースになるカメラからモニターを外しただけという見え方もするんですが、具体的なカメラの中身については、どうなのでしょうか。

兼子氏 細かいことを言えばさまざまなことがあるんですが、中身的にはストロボとモニターを外しただけというのが正しいかもしれないです。ボタンなどのインタフェースも削減して、ズームとシャッターしかないというところもありますが。

小寺 驚いたのは、価格ですね。QX100のベースとなったDSC-RX100M2は店頭予想価格が7万5000円前後と、コンパクトデジカメとしてはかなり高額な商品でした。ところがほぼ同じ性能のQX100は5万5000円前後と、安い。逆に言うと、モニターってそんなにコストが掛かっていたのかという見方もできますが。

兼子氏
設計プロジェクトリーダーの兼子 夏海氏

兼子氏 これは実際に作ってみて初めて分かったことですけど、サイズが小さくなってシンプルになったことで、構造自体が安く作れたということがあります。

小寺 もともとレンズがある鏡筒部は丸いので、そこだけ作ればいいからということですか。

兼子氏 いえ、中身の部品は決して丸くはないので、丸い外形に収めたという形です。モニターを取ったからこの形が残ったというわけではなく、そこは完全に“レンズっぽく見せる”というデザインから来たものです。

小寺 この形に行き着くまでにどんなデザインを考えていましたか。

兼子氏 本当に何パターンもモックアップを作って、多くのソニー社員に触ってもらいました。しかし、どれも正解ではないのです。「私はこれがいい」「私はあれがいい」とそれぞれの好みが分かれます。

 この形に行き着くまでは想像以上の苦労がありました。今でもこれが正解だったのかはよく分かっていません。これから実際に市場で試されるのかなと思っています。ただ、この形をわれわれから提案したからには、しばらくこのスタイルにこだわってみたいとは思っています。

左側正面右側 DSC-QX10の外観。ボタン類は極力減らしており、ボディ側面にシャッターとズームレバーがあるだけだ。反対側の側面にはバッテリーとメモリーカードの有無だけを知らせる表示窓がある(クリックで拡大)

マウントを共通化する狙い

小寺 QX10とQX100の2つのカメラは、内容的にはかなり違います。これだけスペックが違うのに、ボディの径が全く同じなのは、どういう意図があるのですか。

兼子氏 まず後ろに付いてる取り付けのためのアタッチメントを共通化できるということを考えました。そして受け皿側も共通化できるというメリットがあります。

 まさに交換レンズのような形で、QX10を付けたりQX100を付けることができる。どちらかを付けた場合に大きなすき間が空いたり、段差ができるようだと、全て2通り作らないといけなくなります。マウント部分の共通化というところを考えて、サイズを一緒にしました。ただ最初から共通化を狙ってたかというと、それほど厳密に考えていたわけではなく、ここまでピッタリ同じにできるとは思っていませんでした。

背面
背面部。QX10もQX100も径が同じで、アタッチメントの共有などが可能だ

小寺 レンズだけがあるように見せたいというコンセプトは、すごく理解できるところです。ディスプレイするものは付けたくなかったというのが、この脇に遠慮がちに付いている小さい液晶ディスプレイに垣間見られる気がするんです。

兼子氏 やはり最低限の情報を出さないといけないかなというので、そういった小さい窓を用意したという経緯があります。これに関しては、本当にLEDだけにしようとかさまざまな案がありました。ただLEDも、内側でいろいろ場所を占有するという実装面の効率の悪さありましたので、結果的に今の形に落ち着きました。

機能を“切る”のは勇気が必要

小寺 ここで表示されるのは、メモリーカードの有無とバッテリー残量だけですよね。これが最低限だということですか。

兼子氏 玉川は「従来のカメラから機能を切る方向で考えてはいない」と言いましたが、設計するわれわれからすれば、やはり“切る”ことを考えています。従来のカメラから必要な要素、このカメラだったらこれは必要だろうという要素などを、切る勇気というものは必要だったと思います。「本当にこれなくて大丈夫なんだっけ」と最初の方はドキドキしながらやってました。

 表示部については、モニタリングできる液晶は不要だとしても「どこまで質感を落とさずに最低限の表示ができるか」というところを見出だすのが一番大変でした。"ない”ということによって安っぽくなると本末転倒になりますので、質感を保ちつつシンプルに作るところで本当に悩みましたね。

表示窓
バッテリー残量とメモリーカードの有無を知らせる表示窓。「最終的な形に落ち着くまでにはさまざまな葛藤があった」と兼子氏。(クリックで拡大)

小寺 実際に使ってみると、スマホ側のモニター画像は少し遅延しますよね。これはシャッターチャンスが絶対である撮影では致命傷になりかねないところですが、この問題についてはどう考えていますか。

兼子氏 現状でできる解決方法として、一番単純な方法は、送っている絵のサイズを小さくすることです。ただそうすると、画質とレイテンシ(遅延)がバーターになってしまって、決していい方法ではないですね。スマホのディスプレイの解像度が高いので、今でも粗いぐらいだという認識です。ですから解像度はもっと上げたいと思っているのですが、そうするとどんどん遅延が大きくなります。解決策と求めているところがなかなか結び付かないところでジリジリした思いがあります。

小寺 ベースとなったカメラのDSC-RX100M2やDSC-WX200には、カメラとしてはかなり機能がありますよね。一方QXシリーズではほとんどが自動化されています。これは中に機能はあるものの、PlayMemories Moblie側でコントロールできないということなんでしょうか。例えばソフトウェアのアップデートで、ベースのカメラ並みの機能が使えるようになるものですか。

兼子氏 いろいろな可能性を検討しましたが、現時点ではソフトウェアによって新たな機能が追加されるような形にはなっていないですね。中身からも機能は取ってしまっています。

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