富士通のPC工場、勝利の方程式は「トヨタ生産方式+ICT活用」:小寺信良が見たモノづくりの現場(9)(3/5 ページ)
コモディティ化が進むPCで大規模な国内生産を続ける企業がある。富士通のPC生産拠点である島根富士通だ。同社ではトヨタ生産方式を基にした独自の生産方式「富士通生産方式」を確立し、効率的な多品種少量生産を実現しているという。独自のモノづくりを発展させる島根富士通を小寺信良氏が訪問した。
多品種少量生産のライン製造
基板製造はライン生産による自動化で合理化するのは理解しやすいが、バリエーションの多いノートPCの組み立て工程は、セル生産方式が向くといわれてきた。だが島根富士通では、多品種少量生産であるPCの組み立て工程もラインで行っている。
ここでは“人と機械の協調生産”がキーワードとなっている。つまり、ネジ締めやラベル貼りといった単純作業は全て機械化されている。またロボットなどを使って省力化しながら、組み立て製造と同じベルトコンベア上で、各種の試験や外観検査、梱包までやってしまうという徹底ぶりだ。
“忘却”を回避する「混流生産」
さらにポイントは、1つのベルトコンベアラインの中に複数のタイプの機器を流す「混流」が標準的に行われているという点だ。作業者は、特に製造指示書などを見ることもなく、違う製品が流れてきたらそれ用の部品で製造を行う。1人分の作業は約10工程で、所要時間はおよそ1分。
もっとも、これには人間の特性を考慮した工夫がある。大量のロットで同じものをずっと作り続けていると、他のモデルの作業工程を忘れてしまうので、あえて細かくバラしていろいろなタイプがラインに流れるよう、調整しているという。
このような工夫により、従来装置組み立てラインは80mあり、作業者も24人が必要だったが、現在はライン長は半分に、作業者も17人で済むようになった。もちろん、PCは年々機能追加や小型化、薄型化など付加価値が上昇する。それに伴って製造作業も難しくなっていくが、生産コストは生産革新の取り組みを始めてから逆に70%程度に削減できた。製品の付加価値上昇分も含めたトータルで考えれば、生産性はおよそ2倍に向上していることになるという。
ただしこの製造法は、日本でなければ難しい。生産性向上のキーは、高水準の人の能力に依存しているからだ。例えば1人当たりの作業工数の多さや、混流製造に対応できる能力を身につけてもらうためには、技能継承や継続雇用が前提となる。このような雇用形態は海外にはなく、まねしようにもできないものだ。
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